| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-090 (Poster presentation)
タニウツギ(Weigela hortensis, スイカズラ科)は,釣鐘状の花を多数つける落葉低木である.本種の花には複数種のハナバチ類が訪れるが,体サイズの大きく異なるハナバチ類が同時に訪れる際のそれぞれの送粉者としての重要性は十分に検討されていない.本研究では,山形県内のタニウツギ集団においてどのようなハナバチ類が有効な送粉者として機能しているか,花冠形態は送粉者の影響を受けていると考えられるか,を明らかにすることを目的として調査を行った.
2023年と2024年にタニウツギ4集団を対象に花の長さと幅に関する6形質を計測するとともに,訪花者の調査を行った.採集した訪花者のうち,訪花頻度の高かった種を中心に体表花粉を計数した.
花形質の主成分分析では,山形集団では花冠長の長い方向への変異が大きく,西川集団では花冠長が短く,長さと幅の変異は比較的小さかった.米沢集団では花冠幅の広い方向への変異が大きく,金山集団は2箇所で花形質の変異傾向が異なっていた.訪花者相を比較すると,山形集団ではマルハナバチ類が他集団より多く観察された一方,西川集団では小型ハナバチ類が訪花者の約8割を占めていた.米沢集団では小型ハナバチ類が多く,コウチュウ類も比較的多かった.金山集団では2年間で傾向が大きく異なっていた.訪花者相と花形質の比較から,マルハナバチ類女王が多い山形集団では花冠長が長く,ホオナガヒメハナバチなど小型ハナバチ類の訪花頻度が高い西川集団では花冠長が短いという対応関係が見られた.体表花粉の計数から,山形集団ではマルハナバチ類の方がホオナガヒメハナバチよりも有効な送粉者として機能していると考えられた一方,西川集団ではホオナガヒメハナバチが特に重要な送粉者として機能していると考えられた.これらの結果から,タニウツギは一部の集団で有効な送粉者が異なり,その影響を受けて花冠長の変異傾向も異なっている可能性があることが明らかとなった.