| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-092 (Poster presentation)
ナラ枯れは、カシノナガキクイムシの主要な寄主木が優占する天然林や二次林で発生し、寄主木の太さと局所的密度の両方が単木レベルの被害発生に影響していることが明らかとなっている。また、被害地では未被害の寄主木が残っていても被害は収束することから、カシノナガキクイムシにとって寄主木密度には検出閾値があり、これを上回る林分で被害が発生し、これを下回ると被害が収束している可能性がある。本研究では、ミズナラの優占状況が異なる3林分の被害データを用いて、検出閾値を算出することを目的とした。調査地は京都府北東部のミズナラが優占する冷温帯林で、2004年よりナラ枯れの被害が確認された天然林のプロット(16ha)と、2008年より被害が確認された二次林の2プロット(4haと3ha)である。各プロットの各個体の被害発生から6年間のカシノナガキクイムシの穿孔被害の有無を応答変数、経過年数とその2次項、樹種(ミズナラ・クリ・コナラ)、胸高断面積、周囲2.5〜25mのミズナラの胸高断面積合計を説明変数の候補として、ロジスティック回帰とモデル選択を行い、局所的密度に関しては最適なスケールを探索した。回帰の予測値から描いたROC曲線よりカットオフ値を設定し、被害発生の閾値を計算した。
モデル選択の結果、全ての説明変数の候補が採択され、最適な局所的密度のスケールは12.5mだった。ミズナラについて被害1年目で計算すると、周囲12.5m圏内に他のミズナラがなくても、単木で胸高直径が102cm以上あればカシノナガキクイムシに検出され、当該個体は胸高直径10cmと細くても、周囲12.5m圏内に胸高直径56cm以上のミズナラが5本あれば検出されると推定された。同様に被害のピークである4年目で計算すると、単木の検出閾値は36cm、周囲12.5m圏内の密度の閾値は19cm以上のミズナラが5本、となった。天然林では寄主木の個体サイズが大きくなることで、二次林では寄主木の局所的密度が高くなることでナラ枯れが発生しやすくなっていることが示唆された。