| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-094 (Poster presentation)
茶花とは、茶道において茶室を飾る植物である。茶道の教えの一つに「花は野にあるように」とあることから、茶花には野山や庭など身近にある植物が多く用いられる。これは、茶花は生態系サービスにおける文化的サービス(美的な楽しみをもたらす)の1つであることを意味する。本研究の目的は、茶花という文化的サービスの実態を明らかにすることである。文化的サービスに関する既存の研究は、観光や土着信仰など土地固有の文化に関するものが多いが、本研究は茶道という日本全国で実践されている伝統文化に着目する新しい試みとなる。さらに、茶花は身近な環境で入手することが好まれる傾向にあるため、本研究は各地域の身近な自然の価値を新しい観点から評価することにも繋がり、地域の環境保全にも寄与できるだろう。
本研究では、予備的な文献調査と現地調査、SNS等の茶花に関する記事の収集・分析を行った。文献調査により、典型的な茶花として全国的に使われる種がある一方で、地域性のある種も見られることが明らかになった。例えば、昭和初期の茶会では、神奈川県小田原市ではサンショウバラという小田原市に隣接する箱根町周辺にのみ生育する植物が、長野県軽井沢町では高山植物が飾られていた。現地調査およびSNS等で公開された茶花の分析からも、神奈川県でビナンカズラやヤブコウジ、オオハナワラビなどが用いられる一方で、長野県や富山県でキツリフネやクガイソウが用いられるなど、その地域でより身近に見られる植物が用いられることがあった。
今後の調査では、茶道関係の雑誌で利用されている茶花の地域差や時代による変化の有無を調べるとともに、茶道関係者への聞き取り調査に本格的に取り組むことで、身近な植物を利用した生態系サービス(特に文化的サービス)の地域差や地域環境の変化に伴う変遷の実態を、一層明らかにしていきたい。