| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-099  (Poster presentation)

渓流沿い植物ヤシャゼンマイの胞子葉における葉柄柔軟性と構造的背景【A】
Flexibility of petioles and structural background in the fertile frond of rheophytic Osmunda lancea【A】

*柴政幸, 黒須愁治, 黒滝魁斗, 福田達哉(東京都市大学大学院)
*Masayuki SHIBA, Shuji KUROSU, Kaito KUROTAKI, Tatsuya FUKUDA(Tokyo City Univ. Grad. Sch.)

河川沿いの植物は、葉柄などの支持器官を柔軟に曲げることで、増水時の水流ストレスを低減させることが報告されている。このことは、河川沿いで長期間展開し続ける栄養葉にとって有利な機械的形質と考えられるが、二形性を示すシダ植物において、地上部展開期が非常に短い胞子葉の葉柄が水流ストレス低減形質を保有しているのか興味深い問題である。これまでに、渓流沿い植物であるヤシャゼンマイの栄養葉の葉柄における柔軟性の獲得メカニズムが明らかとなっているために、本研究では胞子葉の葉柄柔軟性を対照種であるゼンマイとの比較によって明らかにし、またヤシャゼンマイの栄養葉と胞子葉の葉柄の比較を行い、両葉柄の相同性を明らかにすることを目的として研究を行った。本研究では両種の胞子葉の葉柄について、形態学的・解剖学的計測および3点曲げ試験による力学的特性を分析した結果、ヤシャゼンマイはゼンマイに比べて有意に高い変形割合を示し、また細胞が伸長方向に短小化していることが明らかとなった。この細胞長の変化は、単位長あたりの細胞数が増加するために多くの細胞間を作り出され、そこが応力集中箇所として作用することで細胞同士のずれが発生したために、葉柄全体の変位に繋がったと考えられる。また、葉柄の栄養葉と胞子葉における比較では、変形割合に差は認められなかったものの、栄養葉は胞子葉よりも有意に細胞が短く、かつ細胞壁密度が有意に高い結果が得られた。この胞子葉の細胞壁量の少なさが細胞自身の変形を可能にし、比較的に長い細胞においても栄養葉と同等の葉柄の変化を示すことが明らかとなった。この背景に胞子葉の地上部展開時期の短さが、葉柄の細胞壁への資源投資量を減少させ、その結果として栄養葉と胞子葉は類似した柔軟性が可能となったと考えられる。


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