| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-100 (Poster presentation)
微小なゲンゴロウ科昆虫の一種であるアマミマルケシゲンゴロウHydrovatus seminarius(以下本種)は、国内では東海・近畿地方及び南西諸島に分布している。本種は開発などにより生息環境が減少傾向にあることから、環境省レッドリスト2020では同属他種と同ランクの準絶滅危惧と評価されている。しかしマルケシゲンゴロウ属は、種によって確認地点数や近年の記録数が大きく異なり、現在のレッドリストのランクは各種の現状を正確に反映していない可能性が指摘されていた。本種は2017年以降の標本を伴う公式記録が無く、絶滅危惧種に相当する希少種である可能性が高いものの、詳細な生息状況は不明であった。また、本種は奄美大島と国内のそれ以外の地域間で形態の変異が報告されているが、地域間の遺伝的分化についてはこれまで検証されていない。そこで本研究では、国内における本種の生息状況を把握し、地域間での遺伝的分化の検討を目的とした。
国内における本種の既知産地21地点のうち、現在も湿地環境のある14地点において、たも網を用いた湿地全体の定性的な掬い採り調査を行った。また、既知産地の環境を参考にして追加の調査地点(33地点)を選定し、同様の調査を行った。その結果、本種は既知産地の2地点(和歌山県1地点・奄美大島1地点)、追加調査地点の3地点(和歌山県1地点・奄美大島2地点)の合計5地点のみで確認された。本種が確認された5地点のうち複数個体が確認された4地点について、ミトコンドリア(mt)DNAのCOI遺伝子(405塩基)を用いて、分子系統解析を行った。その結果、本種は和歌山集団と奄美大島集団の系統に分かれ、明確な遺伝的分化が認められた。また、各系統の多様性は低かった。
以上の結果から、本種はほとんどの既知産地で確認されず、著しく減少していることが判明した。また、mtDNAによる分子系統解析の結果、和歌山県と奄美大島の個体群は別の遺伝集団として扱う必要があると考えられる。