| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-103 (Poster presentation)
長良川流域では、戦後の拡大造林期に植林されたスギ・ヒノキ人工林が伐採期を迎えており、皆伐跡地の活用とそれに資する生態系機能の評価が課題となっている。本研究では、長良川上流域(標高約0~1700m地帯)を対象に、スギ・ヒノキの再造林、落葉広葉樹への天然更新、長期の落葉低木化の3つの代表的な皆伐跡地シナリオを適用して、モデルシミュレーションにより、長良川流域における各シナリオにおける炭素吸収量ポテンシャルについて検討した。シナリオ別の炭素吸収ポテンシャルの評価は、生態系モデルBiomeBGCMuSoを用いて推定した純生態系生産量、植物体バイオマス量、土壌炭素蓄積量により実施した。生態系モデルに入力する気象データは、日本域1kmのバイアス補正気候シナリオの5つの気候モデルのhistoricalデータの平均値を用いた。スギ、ヒノキ、落葉広葉樹林、落葉低木化の各シナリオに対するモデル検証は、タワーフラックス観測値および毎木調査データによって推定された植物体バイオマス量等によっておこなった。長良川流域におけるスギ、ヒノキの炭素吸収量ポテンシャルは、中標高地帯で特に高い値となり、林業が盛んな地域と一致した。シナリオ間比較を実施した結果、これらの地点を含めた多くの地点で、炭素吸収量ポテンシャルは、スギ、ヒノキ、落葉広葉樹林、落葉低木林の順で高い値となった。しかし、スギ・ヒノキ人工林は、植物体への炭素貯留が大きく、落葉広葉樹林と比較すると、土壌への炭素蓄積が小さいことが示唆された。したがって、皆伐跡地の活用を森林炭素吸収の観点から検討する際には、年積算炭素吸収量のみではなく、植物体と土壌の炭素滞留時間を考慮した新たな炭素吸収機能指標の導入が必要であると考えられる。