| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-104  (Poster presentation)

樹冠収支モデルによる暖温帯コナラ林の乾性沈着と樹冠交換の推定
Calculating Dry Deposition and Canopy Exchange in a deciduous broad-leaved forest with the Canopy Budget Model

*近藤美由紀(国立環境研究所), 篠塚賢一(岐阜大学), 吉竹晋平(早稲田大学), 大塚俊之(岐阜大学)
*Miyuki KONDO(NIES), Ken'ichi SHINOZUKA(Gifu Univ.), Shinpei YOSHITAKE(Waseda Univ.), Toshiyuki OHTSUKA(Gifu Univ.)

産業革命以来、人間活動に伴う化学肥料や化石燃料の消費が増加し、大気中の反応性窒素が増加しており、大気からの過剰な窒素負荷が森林生態系の窒素循環に及ぼす影響が懸念されている。立林による窒素沈着は、湿性沈着、乾性沈着量と林冠交換量に分類されるが、植物体からの溶出または吸収を考慮した林冠交換量に関する知見は不足している。本研究では、林冠の植物体による窒素収支を算出し、大気と生態系間の窒素沈着をより正確に定量化するため、埼玉県本庄市のコナラ林において林冠収支モデルによる乾性沈着量と林冠交換量の推定を行った。林外雨(n=3)および林内雨(n=12)を、2024年2月18日から2024年10月17日に月1回の頻度で採取した。試料中の各種イオン濃度の測定にはイオンクロマトグラフを用いて行い、溶存有機窒素(DON)濃度の測定は全自動栄養塩分析装置を用いた。
採取期間中の大気からコナラ林への溶存無機窒素(DIN)沈着量は、林外雨からが10.4 kg N/ha、林内雨からが18.3 kg N/haと推定された。一方、DON沈着量は、林外雨からが2.3 kg N/ha、林内雨からが3.0 kg N/haと推定された。乾性沈着量はDINで 7.9 kg N/haで、DONで0.7 kg N/haであった。林冠収支モデルでは、降水量と各種イオン濃度の測定に基づいて、林冠内の主要イオンの相互作用を想定し、森林生態系における乾性沈着と樹冠交換フラックスの推定が行われる。Na+をトレーサーイオンとして、各種イオンの林冠交換量を計算した結果、NH4-Nが9.4 k g N/ha、NO3-Nが1.1 kg N/ha、林冠で吸収されていると推定された。林冠での吸収量は、乾性沈着量と同程度あると予想され、林冠交換量を考慮しない場合には、大気から生態系への窒素沈着が過小評価されている可能性があることが示唆された。


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