| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-106 (Poster presentation)
群馬県みどり市に位置する東京農工大学附属演習林(FM草木、FM大谷山)の合わせて約40ヶ所の小流域において、1991~2022年の約30年間に3回の渓流水質の調査を実施した。期間中の施肥影響の逓減や大気環境の改善を反映して、主要な陰イオン(Cl-、NO3-、SO42-)の濃度は低下傾向であった。一方、塩基性陽イオン(Ca2+、Mg2+、Na+)の濃度はほぼ一定だったため、近年はpHの上昇も観察された(Urakawa et al., 2024)。この地域の渓流水質の耐酸性の要因として、地質母材の風化による豊富な陽イオンの供給を推察し、その起源を解明するために渓流水のストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)の分析を行った。
調査対象の37ヶ所の森林小流域は、面積は1~15 haの一次谷で、地質は花崗岩4ヶ所、ホルンフェルス14ヶ所、堆積岩(秩父中古生層)19ヶ所である。Sr同位体比分析用の渓流水のサンプリングは2022年9月に実施した。0.45 μmのフィルターでろ過したサンプルから、200 ng Srとなるように試料を分取し、蒸発乾固後、硝酸で溶解し、SPEC樹脂のカラムでSrを精製した。MC-ICP-MS (Neoma, Thermo Fisher Scientific)で87Sr/86Srを分析した。
87Sr/86Srは、FM草木よりもFM大谷山で高い傾向だった。87Sr/86Srを地質別にみると花崗岩が分布する流域で低く(0.709~0.711)、付加体堆積岩の流域で高かった(0.709~0.716)。また、付加体堆積岩の中でも分布する岩石の違い(チャートまたは混在岩)によって同位体比が異なることが示唆された。FM大谷山は混在岩とチャート、FM草木は花崗岩、チャート、混在岩という地質構成を反映し、渓流水中の87Sr/86Srが決定されていると考えられた。