| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-112 (Poster presentation)
生物は自然保護区以外にも広く分布し、伝統的な保護区を必ずしも必要としない。こうしたことが明らかになるにつれ、自然保護区の限界の理解が近年進み、保護区外での保全活動の重要性が認識されるようになった。そして、農林業を行ないながら生物多様性を保全することの意義が指摘されている。それでは、農業や林業を行なっている場所で、生物多様性はどの程度維持されているのだろうか?
この問いに答えるため、全国鳥類繁殖分布調査の第二回(1990年代)と第三回(2010年代)の調査結果を解析した。ラインセンサスのデータを用い、開放地性種と森林性種の個体数と、草地と農地と重複するセンサスラインの長さ、天然林と人工林と重複するセンサスラインの長さ、そして繁殖期の平均気温との関係を解析した。ここで個体数を対数変換したセンサスラインの長さで回帰し、その係数を精査することで、各土地利用の量(センサスライン長)の各種密度の増加への寄与度を評価した。センサスライン長は二つの土地利用の項に分解することで、例えば草地に対する農地の生息地としての相対的な価値を定量化した。そして階層モデルの枠組みを用いることにより、これらの気温への依存性や時代差を探索した。解析対象種は10ライン以上に出現した開放地性種46種、森林性種65種である。
解析の結果、小面積の生息地で鳥類の密度が高いことが示され、農地と人工林では気温が低い地域の方が生息地としての価値が一般に高いことが示された。ただし、開放地性種では例外も多かった。また、農地と人工林が開放地性種と森林性種の個体数をどの程度維持しているか(保有率)を県別に算出したところ、人工林率が高い南方で森林性種の個体数保有率が高かった。一方で開放地性種では農地の価値が暖温帯で高い種も多く、個体数保有率に明確な南北の傾度は見られなかった。
発表では、これらの結果が持つ保全上の意義について議論したい。