| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-115 (Poster presentation)
森林内に造られた道路は、光環境の改変や車の侵入などを通して、森林内の動植物に影響を与えていることが予想される。
沖縄島北部(やんばる地域)の森林は、多くの希少な動物が生息する一方で、森林を縦断して生活道路や林道が存在している。そのため林内の道路が動物に与える影響の解明は、生物多様性保全と人間活動の両立において重要な命題である。
本研究では、国内希少野生動植物種に指定されているケナガネズミと、その主要な餌植物であるアカメガシワに着目し、アカメガシワがケナガネズミの行動に与える影響を検証した。アカメガシワは先駆植物であり、開けた道路沿いに生育しやすいため、結実期にケナガネズミが道路周辺へ誘引される可能性がある。本研究ではケナガネズミの出現数が、アカメガシワを採食している時期に増加する(予想1)、アカメガシワ着果量が多い場所で増加する(予想2)と予想し、ケナガネズミの出現時期および場所と、アカメガシワの着果時期および株位置の関係を調べた。
調査はケナガネズミが生息し、アカメガシワが局所的に分布する林道(約2.3 km)にて実施した。2024年4月29日~6月27日にルートセンサスを30回行い、ケナガネズミの出現地点および採食物を記録した。また、同期間に林道沿いのアカメガシワ株の位置を把握し、着果状況、ケナガネズミの食痕の数、胸高直径などを記録した。
その結果、ケナガネズミによるアカメガシワの採食が観察された時期に、ケナガネズミの出現数が増加する傾向が見られたものの、同時期には他植物の採餌も観察された。一方で、ケナガネズミが出現した地点の周辺では、非出現地点の周辺に比べてアカメガシワ着果木の胸高断面積の合計が大きく、予想2を支持する結果が得られた。
本研究は、道路の設置が希少種の行動に影響することを示唆するとともに、ケナガネズミの道路周辺への誘引要因を明らかにすることで、やんばる地域におけるロードキル対策への応用が期待される。