| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-122  (Poster presentation)

東海丘陵の湧水湿地の象徴種シラタマホシクサ(Eriocaulon nudicuspe)の保全遺伝学
Conservation genetics of Eriocaulon nudicuspe - a flagship species of seepage wetlands in the Tokai hilly area, Japan

*佐伯いく代(大阪大学), 平尾章(福島大学)
*Ikuyo SAEKI(Osaka University), Akira S HIRAO(Fukushima University)

シラタマホシクサ(Eriocaulon nudicuspe)は、東海地方の湧水湿地に生育するホシクサ科の絶滅危惧植物である。「白玉星草」の名のとおり、秋に白く小さな花を一斉に咲かせる様は、まるで天の川のように美しい。湧水湿地は100万年を超える地史的な時間スケールにおいて東海地方に分布し、本種を含む地域固有の植物群の形成に寄与したと考えられている。しかし面積が小さく、人の生活圏に近い場所にあることから、開発によって急激にその数が減少している。本研究は、湧水湿地の象徴種であるシラタマホシクサについて遺伝的多様性の特徴を把握し、保全の一助とすることを目的とする。分布域を網羅するよう14の自生地から102個体の葉のサンプルを採集し、DNAを抽出した。その後、GRAS-Di法によって2349座のSNPs情報を取得し、遺伝構造について解析した。その結果、本種は明瞭な遺伝的境界を持ち、おおまかに愛知東部・静岡(I)、岐阜(II)、愛知中部(III)、および三重(IV)という4つの地理的グループに区分されることがわかった。これらについて個体群動態解析を行ったところ、まず、愛知東部・静岡(I)と三重(IV)のグループが分岐し、その後に愛知中部(III)と岐阜(II)が分岐したと推定された。次に、播種により再生された2か所の個体群について解析したところ、近隣の自然個体群と類似した遺伝的組成を有しており、ヘテロ接合度にも大きな違いはないと評価された。このことは、2つの復元個体群が遺伝的攪乱やボトルネックを生じることなく復元されていることを示している。以上の結果から、①本種は分布域が狭いながらも明瞭な遺伝構造を有しており、生息域外保全を実施する際には少なくとも上述の4つのグループを網羅することがのぞましいこと、②近隣の自然個体群の種子を用いて個体群を再生することは、本種の個体数を維持する上で有効な保全手法になりうることなどが明らかとなった。


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