| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-123 (Poster presentation)
野生の訪花昆虫類が減少する中、作物の花粉媒介における飼養セイヨウミツバチ(以後ミツバチ)への依存が高まっている。在来の野生訪花昆虫類と飼養ミツバチとの間には採餌資源をめぐる競争が懸念されるが、実証研究は不足している。加えて、飼養ミツバチの訪花が花上の微生物群集組成にどのような影響を与えるかは分かっていない。花上の微生物は、その一部が訪花昆虫類によって花に移入する一方で、揮発性物資等の生産により訪花動物の行動を変化させる場合もある。本研究では、ニホンナシの果樹園におけるミツバチ放飼試験から、ミツバチの大量訪花が、野生訪花昆虫類の訪花数と花の微生物群集組成に与える影響を調べた。ナシの株は、全訪花昆虫を排除する細かい目合いのネットをかけた昆虫排除区、ミツバチが入れない目合いのネットをかけたミツバチ排除区、ネットをかけない開放区の3処理に分けた。ミツバチの訪花数が増えると、ミツバチ排除区のネットを通過可能な小型の野生訪花昆虫類の訪花数は、開放区では減少し、ミツバチ排除区では増加した。また、花上の細菌群集組成は、ネット処理と調査日によって異なり、ミツバチの訪花数は、開放区の花上の細菌群集組成に影響していた。そこで、ミツバチによる花上の微生物の組成変化が、野生訪花昆虫の訪花に与える影響を調べるため、一部のミツバチ排除区で、調査期間中盤にネットを撤去して開放区と訪花数を比較した。すると、開放区では、ネット撤去後のミツバチ排除区に比べ、野生訪花昆虫類の訪花数が多かった。このことから、ミツバチが花へ運んだ細菌に、野生訪花昆虫の訪花を促進する何らかの機能がある可能性が考えられた。以上より、飼養ミツバチは、花資源を巡る競争により野生訪花昆虫類の訪花数を減らす一方で、野生訪花昆虫に好まれる微生物を運搬する可能性が示された。