| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-124 (Poster presentation)
世界的に両生類の減少が指摘されており、長野県においても多くの種が絶滅危惧種に指定されている。本研究では鳴き声と目視による調査によって、主に水田に生息するカエル類3種(ツチガエル、ナゴヤダルマガエル、トノサマガエル)の河川周辺環境および水田における分布状況を把握するとともに、鳴き声調査の有効性と保全策の検討を目的とした。調査地は長野県の南部に位置する伊那盆地とした。調査は2023年から2024年の5月から9月まで、鳴き声による調査を4回反復、目視による調査を3回反復で実施した。調査地点は鳴き声調査が160地点(うち河川周辺環境は34地点)、目視による調査は12地域、計60筆であった。
鳴き声による調査の結果、ツチガエルは160地点中52地点(うち河川周辺環境22地点)、ナゴヤダルマエルは33地点(うち河川周辺環境7地点)、トノサマガエルは58地点(うち河川周辺環境7地点)で鳴き声が確認された。
目視による調査によって得られたデータをもとに数量化I類を実施した結果、ツチガエルは河川の後背湿地に形成される水田と畦畔の構造物がある場合、トノサマガエルは後背湿地に形成された水田との間で個体数密度との間に有意な正の相関が確認された。
結果の比較を目的にSpearmanの順位相関係数を算出したところ、ツチガエルとナゴヤダルマガエルでは有意な正の相関が確認された。この結果から、上記の2種に関しては鳴き声調査の結果は調査地の個体数密度を反映していると評価されたが、トノサマガエルの鳴き声調査の結果は参考程度に留め、正確な分布や生息の多寡を調査する際には目視による調査を実施する必要があるといえた。
保全する上では水田耕作の維持および放棄地のビオトープ等への有効活用を進めるとともに、現時点では調査や保全活動が全くなされていない河川周辺のワンドやタマリといった環境を注視していく必要があると考えられた。