| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-127 (Poster presentation)
アオウミガメは絶滅危惧種であり、保全対象だが、生態は未解明な点が多い。特に、正確 な年齢査定法が未確立であり、野生下における寿命や成⻑過程も解明されていない。本研 究では、水晶体の放射性炭素同位体比(Δ14C)を利用した年齢査定法をアオウミガメに適用 し、成体の年齢査定と、成⻑過程の復元を試みた。水晶体は摂餌物の同位体比を反映し、 層を形成して成⻑する。また、水晶体は形成された後に代謝不活性化が進むため、水晶体 の中心部には出生直後に形成された部分が生涯残っている。水晶体の中心部には出生直後 に形成された部分が生涯残っている。海洋のΔ14C は、1950 年代の核実験の影響で急上昇 した後は下降傾向にあり、年代特有の値を示す。そのため、水晶体の中心部のΔ14C を測 定し、海洋のΔ14C 変動の値と照らし合わせることで、年齢査定が可能と考えられる。ま た、中心部だけでなく、外側にかけて多層の年齢査定を行うとともに、各層が形成された 時の体サイズを水晶体サイズから推定することで、成⻑曲線の描画が可能になる。小笠原 産のアオウミガメ成体 12 個体(メス:8、オス:4)を対象に、水晶体中心部のΔ14C 測定から 年齢査定を行ったところ、最若齢が 24 歳、最高齢が 42 歳、平均年齢が 35 歳であった。 これらは既存研究で示されている性成熟齢の範囲内であった。また、アオウミガメの寿命 は一般に 70 年程度とされているが、野外個体は 40 年程度と短命である可能性が示され た。2 個体(メス:1、オス:1)について行った複数層の分析から成⻑曲線を描いたところ、性 成熟以降も成⻑率が低下しない、直線的な成⻑過程が復元された。これは成⻑に伴う成⻑ 率の低下を示した既存の野外調査結果と一致しない。この要因として、水晶体の収縮や処 理段階における技術的問題が考えられ、今後検討が必要と考えられた。