| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-131  (Poster presentation)

周辺森林の植生遷移がエヒメアヤメ個体群の開花結実に及ぼす影響
Effects of vegetation succession in the surrounding forest on flowering and fruiting of Iris rossii population

*内藤和明(兵庫県立大・地域資源)
*Kazuaki NAITO(Grad. Sch. RRM, Univ. of Hyogo)

エヒメアヤメは西日本の草原やアカマツの疎林に生育し,生育適地の減少が要因で絶滅危惧植物となっている一方,朝鮮半島を含む本種の分布域の南限地帯として一部の自生地が国の天然記念物に指定されている.これらの自生地では地域住民による下草刈りなどの管理が行われ本種の生育が可能な状態が維持されていることが多い.本研究の調査地である国指定天然記念物沼田西のエヒメアヤメ自生南限地帯(広島県三原市)では地域住民による保存会が1960年代に組織され,指定地の中央部において下草刈りによる維持管理が継続されてきた.1960年代には指定地全体がアカマツの疎林であったが,現在は下草刈りが継続されている草原部と広葉樹林に遷移した外周部とに二分されている.また,2014年に発表者らが調査を実施した時点で指定地全体で約1,000個体が確認されたが,その後は総個体数および開花個体や花数が減少傾向にある.本研究では,個体数減少の状況を把握し回復の方策を検討するために,指定地全体での個体群統計学的調査と全天写真による光環境の解析を2023年から2024年にかけて行なった.確認個体数は2023年が539個体,2024年は456個体,開花個体数2023年が282個体,2024年は178個体であった.個体数や開花個体の減少の要因として外周部の樹木や草原内の単木による被陰が考えられたため,2024年2月に一部の樹木を伐採して光環境の改善を図った.その結果,個体直上における開空率および直射光が差し込む時間が増加したエリアでは,開花個体や花数は前年よりも減少したものの果実数が増加した.樹木の伐採による光環境改善が開花個体の増加や個体の更新を促進するかを確認するには個体群動態をさらに追跡する必要がある.


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