| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-132 (Poster presentation)
近年、生物群集のモニタリング手法として音響レコーダーを使用した受動的音響モニタリングが着目されている。観測可能な音集合であるサウンドスケープに含まれる生物由来の音には、野生生物の種の構成や行動に関連する豊富な情報が含まれている。生物の発声は、気温と密接に関係しているため、気象が生物に及ぼす影響や気象の推移を把握する重要な指標となっている。中でも鳥類は音響モニタリングが行いやすい分類群であり、季節によって生息地を移動する種が多いため、鳥類群集の動態は生物季節の進行の指標になりえる。また、個々の種に焦点を当てるのではなく、有声生物群集全体の活動パターンを指標する値としてサウンドスケープを要約した音響指標が提案されている。そこで本研究では生物群集のモニタリング手法としてサウンドスケープの有効性を明らかにすることを目的とし、鳥類群集および音響指標の季節変化を評価した。
千葉県と長野県にレコーダーをそれぞれ6つずつ設置し録音を行い、BirdNETを用いて鳥類の発声を自動検出した。日単位の鳥類の種組成を出し、Bray-Curtis非類似度指数に基づいて非計量多次元尺度法で序列化するとともに、各月の組成の違いをPerMANOVAで検定した。また音の時間的変動を基に生物活動の複雑性を評価する音響複雑性や生物音と人工音の比率を示す正規化差分サウンドスケープ指数など5つの指標値を算出した。
鳥類組成は両地域ともに繁殖期と非繁殖期で異なった。しかし、千葉県での録音はセミによるマスキングが発生していたため、夏の間は鳥類の検出数が減少した。一方、セミによるマスキングがなかった長野県では、夏の途中に鳥類の群集構成は入れ替わっており、渡り鳥の移出・移入のタイミングを検出できた。音響指標は、セミの発声による影響が大きいものの、鳥類群集の序列軸と有意な関係が検出された。