| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-134  (Poster presentation)

外来蝶アカボシゴマダラと在来蝶2種との部分的なニッチ重複
Niche overlap between the invasive butterfly Hestina assimilis and two closely related native butterflies

*福田智也, 諸岡歩希(茨城大学)
*Tomoya FUKUDA, Fuki SAITO-MOROOKA(Ibaraki Univ.)

アカボシゴマダラHestina assimilis (以下、アカボシ)の大陸由来とみられる個体群は、関東を中心に本州で分布を拡大している。本種と、在来種のゴマダラチョウH. persimilis (以下、ゴマダラ)およびオオムラサキSasakia charonda は幼虫がエノキを摂食するため、資源をめぐる競争が起こることが懸念されている。アカボシは、特定外来種に指定されているが、複数の報告で、在来種とのニッチ重複は部分的である可能性が指摘される。よって、本種の影響を適切に評価するため、本研究では、アカボシが侵入して10年程度が経過した茨城県でアカボシと在来2種の越冬幼虫の樹高選好性を調べた。また、アカボシ未侵入である広島県と岡山県で同様の調査を行い、比較した。茨城県では、小木でアカボシ、大木で在来2種が多く、広島県と岡山県では、在来2種はエノキ大木で多く観察された。このため侵入地での3種のニッチの重複は部分的であることが示唆された。3種の越冬木の樹高選好性について、エノキの葉の質が影響しているかを調べるため、飼育実験では、アカボシとゴマダラの2種の幼虫で、樹高の異なるエノキの葉を給餌した際の成長速度と前翅長を比較した。樹高の異なるエノキの葉を給餌した両種の成長速度に差はなく、アカボシのメスのみ、大木の葉を給餌した際に有意に前翅長が大きかった。エノキ大木上での、在来蝶類との資源競争や、他の要因によって、アカボシは小木を選好している可能性がある。現時点で、外来種であるアカボシと在来2種の、エノキにおけるニッチの重複は部分的であり、資源をめぐる競争は小さい可能性が示唆された。さらに、エノキ小木が、侵入初期のアカボシにとって空きニッチであったことは、本種が本州において急速に個体群を拡大した要因である可能性がある。


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