| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-139  (Poster presentation)

北海道渡島半島における国内外来種ニホンテンの食性【A】
Food habits of non-native Japanese martens in Oshima peninsula, Hokkaido【A】

*齋藤健(山形大), 榎本孝晃(岩手連大, 山形大), 斎藤昌幸(山形大)
*Ken SAITO(Yamagata Univ.), Takaaki ENOMOTO(UGAS, Iwate Univ., Yamagata Univ.), Masayuki SAITO(Yamagata Univ.)

 外来食肉目は生態系や人間社会に対して様々な影響を与える可能性があるため、移入先でどのような生態を示すのか明らかにすることは重要である。北海道南西部に位置する渡島半島には、ニホンテンが国内外来種として生息している。渡島半島には北海道の在来種であるエゾクロテンが生息していたが、現在は生息が確認されていない。渡島半島に分布しなくなった理由の一つに、栄養ニッチの重複による競争的排除の可能性が指摘されている。本研究では、北海道渡島半島における国内外来種ニホンテンの食性を明らかにし、それを踏まえニホンテンとエゾクロテンの栄養ニッチが重複しているか検討した。
 2022年と2024年の夏と秋に渡島半島で計156個の糞を採取した。糞分析により各餌項目の出現頻度と乾燥重量比 (PDW) を算出し、ニホンテンの食性を把握した。また、ニホンテンの食性における季節性を評価するために、各餌項目の出現の有無とPDWを用いて回帰分析を行った。最後に、栄養ニッチの重複を調べるために本研究と、北海道知床地域のエゾクロテン、山形県鶴岡市のニホンテンの先行研究における各餌項目の出現頻度を比較した。
 糞分析と回帰分析の結果、渡島半島のニホンテンは昆虫類と果実を多く利用しており、特に夏は昆虫類、秋は果実を利用していた。栄養ニッチの重複を調べた結果、夏と秋のいずれの季節においても、渡島テンは知床テンよりも鶴岡テンとの類似度が高かった。この違いはエゾクロテンにおける哺乳類の利用頻度の高さに起因すると考えられる。本研究の結果、ニホンテンとエゾクロテンの栄養ニッチの重複が競争的排除の一因となった可能性は低いと考えられる。しかし、渡島半島と知床では気候や資源量が異なる可能性もあり、今後は両種の生息域が近い地域で食性研究を進めることが期待される。


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