| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-152  (Poster presentation)

モデル群集の複雑さに対するストレス応答とレジリエンスの不変性
Constancy of stress response and resilience against complexity of model communities

*田中嘉成(上智大学)
*Yoshinari TANAKA(Sophia Univ.)

生物群集は環境ストレスに対して、種構成の変化や種の表現型可塑性もしくは遺伝的変化によって応答している。本研究では、種構成変化に焦点を当て、群集の環境応答とレジリエンスが群集構造の複雑性にどの程度影響されるかを、多種系ロトカボルテラモデルに基づいたシミュレーションによって調べた。環境ストレス要因として、化学物質のパルス状曝露を想定した。また、薬剤耐性値の種間分布として、淡水の動植物プランクトンおよび無脊椎動物群集の感受性分布データを採用した。群集応答とレジリエンスを定量的に表すために、薬剤耐性値を種の機能形質と見なし、個体数による種間の重み平均を群集レベル耐性とした。環境ストレスによる群集レベル耐性の増加を「形質応答性」とし、ストレス消失後の群集レベル耐性の回復度合いを「形質回復性」とした。
 シミュレーションにおいては、ストレス強度、種間相互作用係数、種数、耐性のコストなどを操作し、群集の構造や複雑性(最大連鎖長、結合度、相互作用強度、種多様度、形質分散)と形質応答性および形質回復性を比較した。その結果、(1)強いストレスは、高い形質反応性と低い形質回復性をもたらし、低い形質回復性はストレスによる種の消失でほぼ説明できた。(2)最大連鎖長と形質の応答性や回復性は相関せず、垂直方向の群集構造は応答性と回復性に影響しなかった。(3)群集の複雑性(種の豊かさ、結合度、相互作用強度)も形質の応答性と回復性にほとんど影響しない一方、種の均一度は形質回復性にわずかに寄与し、形質分散は形質応答性を増加させた。(4)ストレスによる種の消失は、形質回復性を著しく低下させた。また、(5)耐性のコストは、形質応答性を低下させたが、形質回復性は僅かに増加させたに過ぎず、代償効果はほとんどなかった。環境ストレスに対する耐性形質の応答とレジリエンスは、群集の複雑性に対して頑健であることが示唆された。


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