| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P0-153  (Poster presentation)

農家の意思決定と耕作放棄地に関するABM研究 ー進化ゲーム理論をもとにー
An agent-based model study on farmers' decision-making in the abandoned farmland based on evolutionary game theory

*大槻亜紀子(東京科学大学), 横溝裕行(国立環境研究所), 中丸麻由子(東京科学大学)
*Akiko OHTSUKI(Science Tokyo), Hiroyuki YOKOMIZO(NIES), Mayuko NAKAMARU(Science Tokyo)

 農業従事者の減少とそれに伴う耕作地の放棄は近年の農業における大きな問題の一つである。管理放棄された耕作地は雑草の繁栄、病害虫の侵入、畦道の崩壊などにより周辺環境や用水路に悪影響を及ぼす。先行研究のLee et al.(2020)では、水田における耕作者の耕作努力と用水路の維持管理努力を定義し、稲の持続的生産と水田の維持には用水路などの公共設備の維持管理努力が必要不可欠であることを理論的に示した。
 用水路は特に稲作にとって重要な公共の水利施設であり、使用者全員による定期的な草刈りや補修・保全が必要だが、その維持管理作業は農家にとって負担となっている。そこで、本研究では用水路保全作業という集団行動の社会的規範(ソーシャル・ノルム)に着目し、耕作者本人の努力量と周囲または耕作者以外の集団全員の努力量の差から生じる2つの社会的・心理的な圧力をコストとして次のように定義した。社会圧力は耕作者自身の維持管理努力量が周囲または集団の平均値よりも小さい時にのみ耕作者のコストが増加し、同調圧力では耕作者自身の努力量が周囲または集団の努力量の平均値に近いほど耕作者のコストが減少するとした。これらの社会圧力コストを組み込んだ拡張モデルについてアダプティブダイナミクスを用いた解析を行い、耕作地の持続が可能な条件について調べた。また、ABM(agent-based model)によるシミュレーションによって空間構造が存在する場合についても調べた。
 その結果、空間構造がない場合従来モデルでは耕作が維持されなかったが、拡張モデルでは社会圧力のコストの存在により集団の維持管理努力量が上昇し、耕作地が維持されやすいことが示された。また、空間構造が存在する場合には、社会圧力または同調圧力が小さくても耕作地が維持されやすいことをシミュレーションによって確認した。


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