| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-154 (Poster presentation)
高温かつ酸性の温泉は周辺土壌や河川環境にも影響を及ぼすため、その周辺には特殊な生態系が形成される。しかし、このような温泉環境に生息する生物の研究は水生生物に注目したものが多く、地表性節足動物に関する知見は限られる。
我々はこれまでに、高温かつ酸性の温泉が湧出する山形県蔵王山の複数地点、および中性河川の馬見ヶ崎川沿岸において地表性節足動物相を調査し、酸性度・温度・標高に応じて目レベルの群集組成が大きく異なる事が明らかとなった。また、この調査では、チシマミズギワゴミムシが温泉環境において高密度に生息し、中性環境では全く得られないという特徴的な分布を示すことが明らかとなった。さらに、本種が高密度に生息している地点には温泉水に浸った昆虫の死骸が多く見られ、本種がこれらを食べている様子も観察された。これらのことから、本種は高温や酸性の環境に対する耐性や選好性、また何らかの適応形質を獲得している可能性が示唆される。
そこで本研究では、チシマミズギワゴミムシの生態や適応形質を探るため、地表の温度や酸性度が異なる複数地点で採集した標本の体長や頭長などの機能形態を計測し、地点間の差を調べた。また、飼育下で酸性水および中性水に浸した餌を与え、それぞれの生存率を比較した。加えて、酸性水および中性水に浸した餌を同時に与える選択実験を行い、どちらの餌を好むかを調べた。さらに、本種を異なる温度条件下で飼育することで、高温耐性の有無を調査した。結果として、本種の頭長と頭幅の比は酸性度の上昇に伴って大きくなる傾向が見られた。飼育実験では、酸性の餌を好む傾向は見られないものの、酸性の餌を食べた場合でも生存率の低下は起こらないことが明らかになった。また、異なる温度条件下で飼育した場合、野外では高温環境に生息するにも関わらず、高温であるほど生存率が低下することが示された。