| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-155 (Poster presentation)
自然界において気温や餌の豊富さなどの環境条件は生物の繁殖成功率や子孫の生存率に大きく影響する。このため、繁殖期の最適化は環境に適応する上で重要であり、生物は種によって異なる繁殖期を示す。このような季節性繁殖の多様性を生む遺伝基盤に関して様々な研究が進められているが、その多くは未解明である。本研究では、その一端を明らかとするため、トゲウオ科イトヨにおける繁殖時期の種内多型に着目した。イトヨには、大きく分けて海と淡水域を回遊する海型集団と、淡水で一生を過ごす淡水型集団という2つの生態型が存在する。多くの海型集団は春に遡上して淡水域で産卵する典型的な季節性繁殖を行う一方、淡水型集団の繁殖時期は多様性が大きく、ほぼ通年繁殖する個体群も存在する。近年、私たちの研究から、こうした生態型間の繁殖期の違いに甲状腺刺激ホルモン遺伝子TSHβ2の日長応答性の違いが関与することが分かってきた。さらに、北米に生息する海型と淡水型のTSHβ2の発現量の違いは、TSHβ2の上流のシス領域の変異により生じていると示唆された。しかし、TSHβ2の発現の違いを生む具体的な遺伝的変異は未だ同定されていない。そこで、本研究では北米の海型/淡水型集団それぞれ複数個体のゲノムを用いて、TSHβ2の上流約3000 bpをクローニングし、集団間の配列情報を比較解析した。その結果、当該領域に、海型/淡水型特異的な配列を複数同定した。また、モチーフ解析より、海型/淡水型特異的な配列内にZinc Finger Protein転写因子結合サイト様の領域が検出された。さらに、下垂体のTSHβ2発現細胞内で海型特異的に共発現している遺伝子の結合モチーフと相同性の高い領域を上記配列内に複数発見した。今後、イトヨ胚やゼブラフィッシュ由来培養細胞を用いてこれら候補変異の機能解析を行い、季節性繁殖に多様性を生み出す分子遺伝機構を解明する。