| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P0-156 (Poster presentation)
種を構成する全ての個体がメスであり,単為生殖のみを行う種は絶対的単為生殖種と呼ばれ,有羊膜脊椎動物では唯一,爬虫綱有鱗目(ヘビ・トカゲ類)において発見されている.これらの多くは,2種の両性生殖種(親種)の交雑に起源しており,親種や近縁種とのさらなる交雑により倍数性や遺伝的組成の異なる新しいクローン系統が生じることも知られている.絶対的単為生殖種であるオガサワラヤモリLepidodactylus lugubrisは,熱帯・亜熱帯域のインド–太平洋やカリブ海の島々に広く分布しており,特に沖縄県の大東諸島では,本種の2倍体クローンに加えて多数の3倍体クローンが確認されている.本研究では,集団遺伝解析に基づく各クローンの出現プロセスの推定に加え,交雑起源の異なるクローン間で島内での分布パターンや利用環境を比較した.ミトコンドリアDNA解析(cyt b:1,022 bp)およびMIG-seq法によるSNP解析(17,196遺伝子座)の結果,大東諸島の2倍体クローン(D2X)は,推定母系親種L. moestusと何らかの両性生殖種との交雑により生じたことが確認された.また,大東諸島の3倍体クローンは,母系親種はD2Xと推定される一方,SNP解析では2つのクラスター(D3X-1,D3X-2)が検出されたため,遺伝的に分化した少なくとも2つの父系親集団との交雑によって生じたことが示唆された.続いて,南大東島内での各クローンの分布を調べた結果,D2Xは島内全域に分布するものの,D3X-1とD3X-2は主に島の南北で発見頻度に有意な偏りがみられた.また,景観レベルで出現環境を比較したところ,クローン間に違いがみられなかった.しかし,ヤモリが発見された植物種を比較したところ,一部の植物種の利用頻度が2倍体クローンと3倍体クローンの間で有意に異なり,微環境レベルでのニッチ分割が生じていることが示唆された.