| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-001 (Poster presentation)
硫気荒原は、火山活動が沈静化した後も硫気の噴出を続ける噴気孔を含む荒原である。九州地方の硫気荒原にのみ分布するツクシテンツキF. dichotoma subsp. podocarpa(カヤツリグサ科)は、高い低pH耐性とAl耐性を有しているため、噴気孔周辺の強酸性土壌(pH=2−3)に優占できるとされている。しかしながら、本種と近縁種間、本種の産地間における生態的特性を比較した報告は行われていない。加えて、本種の分布は、硫気荒原に強く依存する隔離分布型であるが、本種がどのようにして隔離した火山地域間(別府・阿蘇・雲仙・霧島・指宿・悪石島)で分布を広げたのかについては明らかにされていない。そこで本研究では、本種と亜種関係にあるテンツキF. dichotoma var. tentsukiについて低pH・Al耐性を比較した栽培実験を実施したほか、本種の産地間(別府産・霧島産)における生育土壌および元素吸収特性の比較を行った。加えて、分子系統解析とMIG-seqを用いた集団遺伝解析から本種とテンツキとの系統関係および本種の分布形成過程の推定を行った。栽培実験により、ツクシテンツキはテンツキよりも低pHおよびAl耐性が高いことが明らかになった。核rDNAのITS領域および葉緑体psbA-trnHを用いた系統解析の結果から、テンツキはツクシテンツキのどの集団とも異なるクレードに位置する可能性が示唆された。MIG-seqを用いた集団遺伝解析の結果から、ツクシテンツキ種内には①別府、②阿蘇、③雲仙・霧島、④悪石島の4つの地域的なクラスターが存在していることが明らかとなった。近縁種を含めた系統解析の結果からは、ツクシテンツキ種内の基部で大きく2つのグループに分化(①・② vs ③・④)することが明らかとなり、ツクシテンツキが九州の南北に分化した後、それぞれに分布を広げたことが推察された。