| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-003 (Poster presentation)
多様な系統で進化してきた落葉樹・常緑樹の生態学的違いは、主に地上部形質について注目されてきた。常緑樹の葉は葉重あたりの光合成速度が低いが耐久性が高く、活性の低い葉を長期間維持する保守的な戦略を持つ。この特徴は、貧栄養などの強い環境ストレス下で適応的であると考えられてきた。一方、地下部形質の違いについては、研究例が乏しい。常緑樹は、落葉樹に比べ根の表面積が低下し耐久性が高いことが予想されているが、酵素活性や滲出物炭素分泌速度など栄養獲得に関わる生理的な形質はこれまで系統や物理的な環境要因をそろえた比較がなく、二つの生活型の違いは未解明である。本研究では、樹木の根の形態的・生理的形質を同時に測定し、常緑樹は地下部と地上部が一貫して保守的な戦略を持っているのかを検証した。
京都市に同所的に生育する常緑―落葉樹種の同科ペア(計5科10種30個体)を対象とし、各個体に対して2023年9月と2024年7月に調査を行った。葉形質、細根滲出物滲出速度、酵素活性、細根形態(細根組織密度、直径、比表面積)、さらに、細根滲出物中に含まれる異なる分子構造の有機酸の滲出速度も測定した。葉・根形質における落葉・常緑樹での差異を、系統、環境条件を考慮した上で評価した。
常緑樹の根は比表面積が低いが組織密度は高く、仮説どおり保守的な形態の根を持つことが明らかになった。常緑樹の根のフォスファターゼ活性は落葉樹より有意に低かったが、細根滲出物の全炭素量や有機酸の炭素滲出速度は高い傾向が見られた。滲出される有機酸成分は常緑樹と落葉樹で同程度のばらつきを示したが、これ以外の根形質は、常緑樹の個体間でばらつきが小さく形質が収斂する傾向が見られた。これらの結果から、落葉樹・常緑樹の地下部の形質は多くの系統で地上部の資源獲得戦略に従うように進化したが、細根滲出物のように系統の影響を強く受け、戦略が定まらない形質も存在すると示された。