| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-004 (Poster presentation)
本研究の調査地である休廃止鉱山の選鉱場跡地は、土壌にFe等の重金属を含む他、酸性水が流入しており、植物の生育にとって過酷な環境である。2022年以降、流路にそってイ(Juncus effusus L. var. decipiens)の生育が確認されるようになり、本植物は何らかの重金属耐性を有していると考えられた。また近年、根に生息する内生菌は宿主植物の金属耐性を向上させることが報告されている。そこで本研究では、調査地に生育するイにおけるFe耐性機構及びイの根に生息する内生菌のFe耐性機構への関与を解明することを目的とした。
含有元素濃度分析の結果、イは高濃度のFeを枯死根及び生根に蓄積していることが確認された。また、生根においては表皮と皮層の最外層、枯死根においては表皮と皮層の広範囲にそれぞれFeの局在が観察された。生根に含まれるフェノール性化合物を分析した結果、抗酸化物質であるchlorogenic acid、luteolin、luteolin配糖体が検出され、Fe蓄積で発生する活性酸素種による毒性を軽減すると考えられた。生根より内生菌の分離を行った結果、主要な内生菌としてdark septate endophyte(DSE)が分離され、一部の菌株においてsiderophore産生能が確認された。Siderophoreは重金属元素と錯体を形成し毒性を軽減するため、イの重金属耐性に寄与していると考えられた。また、DSEの機能としてメラニン産生による重金属の吸着が考えられ、イから分離された内生菌にも同様の機能があると考えられた。以上のことから、調査地に生育するイは生根において、1)表皮と皮層の最外層にFeを蓄積することで皮層細胞への拡散を抑制、2)抗酸化物質の産生、及び3)DSEの感染により、Fe耐性を獲得している可能性が考えられた。また、枯死根におけるFeの蓄積は体外への排出に繋がり、Fe耐性に寄与すると考えられた。