| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-005 (Poster presentation)
葉の形質は植物の光合成能力や環境適応能力と密接に関連しているため、様々な葉の形質について多くの研究が行われている。中でも、比葉面積(SLA)や葉乾物含有量(LDMC)、葉の窒素(N)・リン(P)含有量は樹木の成長特性を顕著に反映する指標として、δ13C(葉炭素安定同位体比)は樹木の水利用効率を反映する指標として知られている。明瞭な雨季と乾季がある熱帯季節林では、乾季の乾燥が植物にとって大きなストレスとなっており、乾季も完全に葉を落とす落葉樹林が成立している。一方で乾季も葉を維持する常緑樹が主な常緑樹林や、両方が混交する半常緑樹林も成立しており、乾燥ストレスに対する戦略が異なっている可能性がある。そこで本研究では、カンボジア・シェムリアップ州の熱帯季節林で、隣接する落葉樹林・半常緑樹林・常緑樹林の樹木の葉の形質5種類(SLA・LDMC・N・P・δ13C)を比較し、森林タイプ、落葉・常緑別の樹種タイプ、単葉・複葉別の3グループで葉の形質の違いを評価した。雨季の2023年6・7月及び2024年7月に、計53種328個体の葉を、各個体につき5 ~ 10枚採取し、生重と乾重の測定、スキャナーによる葉面積の算出、粉砕試料からN、P含有量とδ13Cの測定を行った。その結果、森林タイプ、樹種タイプ間比較では、δ13Cにのみ差が見られ、落葉樹林の方が半常緑・常緑樹林より有意に大きく、落葉樹種の方が常緑樹種より大きくなった。このことから、森林タイプや樹種タイプの差では、炭素の資源利用戦略に違いは生じないが、半常緑・常緑樹林よりも落葉樹林で、常緑樹種よりも落葉樹種で水利用効率を高める傾向にあることがわかった。また、単葉と複葉の比較では、複葉の方が単葉よりSLAやN含有量、δ13Cが高かったことから、複葉は単葉より、光合成で獲得した炭素を保存より成長に投資する性質をもつことが示唆された。