| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-006 (Poster presentation)
アジアは世界のコメ生産の約9割を占めており、食料安全保障上重要な地域である(Nimala, 2018)。これまで、過去の気候変動がコメ生産に与えた影響が統計資料(Lobell et al., 2011)や作物モデル(Xiong et al., 2012)を用いて調べられてきた。しかし、既往研究では解析期間が5,60年程度に留まっており、気候変動の影響が顕著に現れる長期間の解析は行われていない。加えて、品種改良は収量増加において重要な要素である(Miflin, 2000)が、気候変動と品種改良を共に考慮した統合的な解析はこれまで行われてこなかった。
本研究では、プロセスベースの作物モデルMATCRO(Masutomi et al., 2016)の内部パラメータを最適化することで、アジア地域の過去1世紀以上にわたるコメ収量を復元する。そして、過去の気候変動および品種改良がアジアのコメ収量に及ぼした影響を個別に定量評価することを目的とする。
統計資料が充実している韓国、タイ、バングラディッシュ、フィリピンの四カ国について、はじめに、統計資料とMATCROモデルシミュレーション結果の誤差(RMSE)が最小になるよう、MATCRO内部の6つのパラメータを最適化した。最適化は20年間を一単位とし、1996-2015から1906-1925までの計10期間について行った。これにより、イネの生育特性の時系列データセットを作成した。次に、最適化されたパラメータセットを用いて、生育特性や気候変動の変遷が異なる仮想シナリオにおける収量をMATCROにより計算し、ベースシナリオからの差分解析により各要素の影響を定量化した。
パラメータ最適化によって、MATCROは各地域において概ね収量記録を復元した。一期作を仮定した韓国では温暖化に合わせて収穫時期が前倒しになるなど、最適化したパラメータの時系列変化は一部妥当な変化を示した。また、過去の環境的・遺伝的要因の収量への寄与については、CO2や窒素施肥効果が大きく増加に働いた一方、生育特性の変化や気温上昇などは地域ごとに異なる影響を与えた。