| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-009  (Poster presentation)

1日に2度沈む植物:オオバタネツケバナにおける淡水潮汐環境への適応【O】
Periodic submergence: Adaptation to freshwater tidal environments of a marsh plant, Cardamine scutata【O】

*横溝匠, 湯本原樹, 工藤洋(京都大学)
*Takumi YOKOMIZO, Genki YUMOTO, Hiroshi KUDOH(Kyoto Univ.)

月による潮汐力と地球の回転運動は海面を周期的に昇降させ、約12.4時間周期の潮位変化をつくりだす。この潮汐サイクルは河川の下流域に対しても水位の周期的変化をもたらし、海から少し離れた場所でも淡水の潮汐環境が創出される。アブラナ科草本のオオバタネツケバナ(Cardamine scutata)には、渓流沿いの湿った林縁に自生する非潮汐集団と、淡水潮汐環境となる河川の川岸に進出した潮汐集団が存在する。潮汐集団の個体は、干潮時には地下部を含めて干出しているが、満潮時には地上部まで完全に水没する。このことから、潮汐集団の個体は周期的な水没ストレスを受けていると考えられるが、その応答メカニズムは明らかにされていない。本研究では、水没ストレスに対する生理的な応答を集団間で比較するとともに、潮汐集団において水位変化に対する遺伝子発現の応答を調べた。まず、室内で栽培した潮汐集団と非潮汐集団の個体を実験室で5日間水没させ、その直後にFv/Fmを測定して光化学系Ⅱの最大量子収率を調べた。その結果、Fv/Fmは水没処理によって低下するものの集団間に差はみられず、水没による光化学系Ⅱへのストレスは同程度であると考えられた。次に、野外個体を用いて根の断面切片を作成したところ、どちらの集団でも通気組織が観察され、湿潤な嫌気土壌に適応していることが示唆された。これらのことから、本種はどちらの集団も、過剰な水分によるストレスに適応した形質をもつことが示唆された。また、潮汐集団における遺伝子発現パターンの変化を調べるために、野外で3.1時間おきに葉を採集し、トランスクリプトーム解析を行なった。その結果、12時間周期の発現パターンを示す遺伝子が128個検出され、そのほとんどは水没時に発現がピークになるものであった。これらの遺伝子は周期的な水没に対する応答に関わっている可能性があり、本種における潮汐環境への適応機構を解明する手がかりとなると期待される。


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