| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-010  (Poster presentation)

雪解け直前から夏季におけるトドマツ苗木の細根の低温耐性と窒素吸収能の変動【O】
Variation in cold tolerance and nitrogen absorption capacity of fine roots in Abies sachalinensis seedlings from before snow melts to summer【O】

*菅井徹人(森林総合研究所), 諏訪竜之介(信州大学), 小林悠佳(北海道大学), 石塚航(北海道立総合研究機構), 牧田直樹(信州大学)
*Tetsuto SUGAI(FFPRI), Ryunosuke SUWA(Shinshu Univ.), Haruka KOBAYASHI(Hokkaido Univ.), Wataru ISHIZUKA(HRO), Naoki MAKITA(Shinshu Univ.)

[背景] 亜寒帯性の常緑針葉樹では、地温が低い冬から春にかけて早期に根が成長し始めることがある。この成長開始時期は落葉広葉樹よりも早いことから、地下部における季節的な棲み分けとして、早期に土壌資源を獲得している可能性がある。一方、植物個体の中で根は特に低温に弱く、春先の早すぎる低温耐性の低下によって、極端な低温や土壌凍結がストレスになる。寒冷適応が発達している常緑針葉樹では、春の根の低温耐性の低下時期や土壌資源の獲得開始時期が同調しているかもしれないが、積雪条件下での研究例は少ない。
[方法] 北海道支所の実験林苗畑において、雪解け直前の4月、雪解け後1ヶ月の5月、また夏の8月にかけて、トドマツ苗木の細根の低温耐性と窒素吸収能の季節動態を評価した。4月の実験時における最大積雪深は40cm、平均地温は6.2度であり、細根は苗木を雪から掘り起こした翌日から採取した。低温耐性は電解質漏洩法に基づき、7段階の温度に対する組織生存率の非線形な応答から評価した。窒素吸収能は、苗木から伸びたままの細根を硝酸態及びアンモニア態窒素を混合した培養液で一定時間培養した後、培養液における各イオン濃度の変化と培養した細根の重量に基づいて評価した。また、低温耐性や窒素吸収能に関連する機能形質として、細根の非構造性炭素や平均直径等の形態特性も評価した。
[結果と考察] 一般的な低温耐性の指標であるLT50は4月から8月にかけて低下した。一方で、細根の窒素吸収能は、雪解け直前、雪解け後および夏の間で有意な季節変化を示さなかった。また、細根の非構造性炭素や平均直径は4月から8月にかけて低下し、どちらも低温耐性との有意な相関関係を示した。これらの結果は予想と異なり、低温耐性の低下時期と窒素獲得の開始時期が必ずしも同期しないこと、また細根が低温耐性を解除する雪解け直前から土壌中の窒素吸収を開始していることを示唆している。


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