| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-012 (Poster presentation)
植物は、ストレスに応答して様々な揮発性有機化合物(BVOCs)を生成し、大気中へと放出する。BVOCsは大気化学反応の起点となり、気温や降水パターンへの影響も示唆されている。これまで植物によるBVOCsの放出特性(放出量や組成)は種内で一様と捉えられてきたが、近年、種内における大きな変動が報告されている。この種内変異には遺伝的変異や環境条件の関与が示唆されているが、詳細は明らかにされていない。そこで本研究は、スギ(Cryptomeria japonica)を対象にした共通圃場実験により、遺伝的背景や生育環境がBVOCs放出特性の種内変異に与える影響を解明することを目的とした。
2箇所の共通圃場(宮城県と茨城県)に生育する3集団(青森県鯵ヶ沢、島根県安蔵寺、鹿児島県屋久島)のスギを対象に、季節を変えてBVOCs放出速度の測定を行った。スギが放出するBVOCsを、枝を覆ったバッグに通気しながら吸着管に採取し、前処理後にGC/MS/FIDで測定した。分析の結果、モノテルペン12種類、セスキテルペン6種類、ジテルペン2種類が検出され、主要な化合物は、α-Pinene、Sabinene、β-farnesene、ent-kaureneであった。BVOCs放出組成の共通圃場間差や季節間差の現れ方は集団間で異なっていた。屋久島集団では共通圃場間および季節間の差が両方とも有意でなかった一方、安蔵寺集団ではいずれにおいても有意差が認められ、鯵ヶ沢集団においては共通圃場間差のみ有意であった。これらの結果は、スギのBVOCs放出特性の環境応答性に遺伝的変異が関与していることを示唆する。環境変化に対する放出特性の可塑性が集団間で異なることから、BVOCs放出特性の変動には遺伝的要因が影響を与えていると考えられる。