| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-013  (Poster presentation)

熱帯落葉広葉樹チークの乾季における幹表面からの水分獲得【O】
Water uptake from the stem surface of teak (Tectona grandis), a tropical deciduous hardwood, during the dry season【O】

*松永寛之(三重大学), 松尾奈緒子(三重大学), 中井毅尚(三重大学), 安部久(森林総研, 三重大学)
*Hiroyuki MATSUNAGA(Mie Univ.), Naoko MATSUO(Mie Univ.), Takahisa NAKAI(Mie Univ.), Hisashi ABE(FFPRI, Mie Univ.)

近年、樹木の幹や枝の表面からの水分獲得が根からの水分供給の不足を補っていることが発見され、樹木の水動態や森林の水循環のさらなる理解のために注目されはじめている。幹表面からの水分獲得の野外観測事例は森林限界付近の針葉樹種や濃霧が発生する海岸林の巨木など特定の地域や樹種に限られていたが、筆者らは乾季の一時的降雨に対する熱帯落葉広葉樹チーク(Tectona grandis)の樹幹周囲長や樹液流速度の応答の野外観測結果から、熱帯樹種ではじめて幹表面からの水分獲得を確認することに成功した。
樹木の幹表面は死亡組織である外樹皮で覆われている。粗く剝がれやすい外樹皮をもつチークにおいて、水分がどのような形態で外樹皮表面から幹内に浸入するかは未解明であった。また、外樹皮の表面形状や剥離頻度の樹種間差が幹表面からの水分獲得に及ぼす影響も不明であった。そこで本研究では、チークの乾燥樹皮片の外樹皮表面から蒸留水または水蒸気を吸収させる室内実験を行い、各水分形態の吸収の有無を確認するとともに樹皮片重量の増加より吸収速度を算出した。また、平滑で剝がれにくい外樹皮をもつ冷温帯落葉広葉樹ブナ(Fagus crenata)の乾燥樹皮片で同様の実験を行い、チークと比較した。
チーク樹皮片では、蒸留水と水蒸気の両方が外樹皮表面から吸収されることが確認され、蒸留水吸収速度の方が水蒸気吸収速度よりも大きかった。これらのことより、チークでは外樹皮表面に付着した雨水の直接吸収が幹表面からの水分獲得に大きく寄与していることが示唆された。一方、ブナ樹皮片では、蒸留水の吸収は確認されなかったが、水蒸気吸収速度はチーク樹皮片よりも大きい値を示した。これらのことより、外樹皮の表面形状や剥離頻度の差異は外樹皮表面で吸収する水分の形態や速度に関与することが示唆され、樹種ごとの幹表面からの水分獲得にも影響すると考えられる。


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