| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-016  (Poster presentation)

蛇紋岩地帯・石灰岩地帯の土壌環境は植物の生育を制限しているのか?【A】【O】
Do soil conditions of serpentine and limestone areas limit plant growth?【A】【O】

*井上竜輔(広島大学), 山本晃弘(広島市植物公園), 渡部敏裕(北海道大学), 竹田一彦(広島大学), 和崎淳(広島大学), 中坪孝之(広島大学)
*Ryusuke INOUE(Hiroshima Univ.), Akihiro YAMAMOTO(Hiroshima Botanical Garden), Toshihiro WATANABE(Hokkaido Univ.), Kazuhiko TAKEDA(Hiroshima Univ.), Jun WASAKI(Hiroshima Univ.), Takayuki NAKATSUBO(Hiroshima Univ.)

蛇紋岩地帯・石灰岩地帯は絶滅危惧種を含む固有種が数多く生育し特異な植物相となっている。その要因としてアンバランスなCa/Mg(蛇紋岩地帯は低Ca/Mg、石灰岩地帯の一部では高Ca/Mg)や高pHなどの土壌環境が考えられている。CaとMgは互いに拮抗作用があるため、これらのバランスが崩れた環境は植物の生育に影響を与えることが知られている。そのためこうした環境に生育している植物は、CaとMgに対する特異な吸収特性を持ち適応していると考えられている。しかし、実際には蛇紋岩地帯と石灰岩地帯の両方に生育する植物や広く分布する植物も確認されており、土壌環境がそれらの植物の成長にどの程度影響しているかは明確に分かっていない。そこで本研究では「土壌Ca/Mgに対する反応の差が種の分布を規定している」という仮説を検証するために、ノアザミ Cirsium japonicum(蛇紋岩地帯を含む草地に分布)、ウスバアザミ C. tenue(石灰岩地帯に固有)、キセルアザミ C. sieboldii(蛇紋岩地帯を含む湿地に分布)のアザミ属3種と、オヌカトウヒレン Saussurea ochiaiana(蛇紋岩地帯に固有)のトウヒレン属1種を用いて土壌Ca/Mgの影響を調査するための栽培実験を行った。栽培実験ではCa/Mgを約0.15(Ca:0.3mM、Mg:2.05mM)、1.5(Ca:0.3mM、Mg:0.205mM)、15(Ca:3mM、Mg:0.205mM)の3つの条件を設定し、60日間の砂耕栽培を行った。さらに吸収特性を把握するため植物体の地上部の元素分析を行った。
ノアザミはCa/Mgがアンバランスな環境下(0.15、15)で、1.5の環境下と比較して生育が有意に制限され、植物体のCaとMgの濃度は、他の3種と比較して土壌の影響を受けやすかった。一方、キセルアザミは各Ca/Mg条件区の間で地上部、地下部ともに成長量に有意な差は見られなかった。また、オヌカトウヒレンとウスバアザミについても、ともに高いCa/Mg環境下、低いCa/Mg環境下で成長量に有意な差は見られなかった。これらの結果から、本研究の仮説は支持されなかった。


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