| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-019 (Poster presentation)
森林内の多種共存に重要な役割を果たすと言われているのが、成長速度と耐陰性の種間トレードオフである。耐陰性の種間変異を説明する要因を探るために数多くの研究が試みられ、個体の炭素収支と防御が耐陰性と関連することが報告されてきた。しかし、耐陰性をもたらす基礎的な機構は依然として不明であり、炭素収支と相関する機能形質が何か、耐陰性にとって個体の炭素収支と防御のどちらの効果がより重要か、機能群(落葉種/常緑種)間で耐陰性のメカニズムがどのように異なるかはわかっていなかった。本研究では、温帯の落葉常緑混交林に共存する樹木20種を対象に、個体の呼吸速度、葉レベルの炭素収支、樹形に依存する自己被陰の効果、病原菌抵抗性を含めた複数の機能形質を同時に測定し、耐陰性との関係を評価した。次に、多変量解析により、耐陰性を決定する最も重要な形質を特定した。最後に、機能群(落葉種/常緑種)間で耐陰性獲得戦略を比較した。
調査の結果、耐陰性には防御よりも個体の炭素収支の方がより強く寄与し、特に個体の呼吸速度の低さが最も強く寄与していた。また、葉の光補償点や病原菌抵抗性など様々な形質も耐陰性と相関を示し、弱光環境への適応が様々な形質に対して選択圧となっていることがわかった。落葉種と常緑種を比較すると、常緑種は落葉種よりも耐陰性が高かった。また、個体の炭素収支が同じ種で比較しても、常緑種は落葉種よりも暗い環境で生育できていた。この結果から、落葉種が葉を持たない期間に常緑種が同化物を蓄積していることが示唆され、光環境の季節変化が落葉種と常緑種それぞれの耐陰性機構に関連していると考えられる。