| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-020 (Poster presentation)
エノコログサはC4型光合成のモデル植物としての利用が期待されるが、休眠性が深く発芽率が低いことが問題となる。これまで筆者らは、エノコログサ種子の外皮の撥水構造が発芽率が低い一因である可能性を報告した。さらに本研究では、Setaria属に属するエノコログサ、アキノエノコログサ、キンエノコロ、モチアワの種子表面の微細構造を電子顕微鏡によって観察し、種子の外皮に亜鈴型のプラント・オパールが並列している構造を発見した。葉や茎のプラント・オパールは植物骨格組織や、食害からの防御などの機能が指摘されているが、種子表面のプラント・オパールの役割は不明な点が多い。筆者らは、常法である冷湿処理よって休眠打破を行ったエノコログサ種子では、外皮のプラント・オパールが剥離していることを確認した。また、剥離箇所を起点として種子表面に亀裂が生じているようすもみられた。このことから、エノコログサ種子表面のプラント・オパールは、種子の不透水構造を破壊し、休眠打破に影響している可能性がある。一方、エノコログサを原種とする栽培種であるモチアワの種子は、撥水構造を有する外皮が短く、内皮がむき出しになっていた。さらに、休眠打破処理を行なっていないにもかかわらず、種子表面のプラント・オパールはすでに剥離していた。栽培種であるモチアワはエノコログサと異なり、深い休眠が見られないが、これは栽培化の過程で外皮が縮小し、プラント・オパールの構造が失われたとも推察される。
他方、キンエノコロは撥水構造を持つ外皮が短く、内皮がむき出しになっており、モチアワと類似した種子形態であった。さらに複数の系統を用いた発芽試験により、キンエノコロはエノコログサやアキノエノコログサと比較して休眠が浅いことが明らかとなった。このことから、エノコログサ類の種子表面のプラント・オパールは種子の休眠性に種皮の透水性に関係している可能性がある。