| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-021 (Poster presentation)
樹木と草本は陸上生態系の主要な構成要素であり、両者の地上部と地下部の呼吸は陸上生態系炭素収支を左右する。両者の芽生え~成熟個体のサイズ幅や寿命には大きな差があるため、地上部・地下部の呼吸速度とサイズの関係(スケーリング)は樹木と草本で異なると予想される。しかし、両者の芽生え~成熟個体の地上部・地下部呼吸の実測研究は殆ど無い。
そこで、様々なサイズの測定装置を使用してシベリア~熱帯の多様な系統・環境の樹木96種1243個体と草本33種463個体の地上部・地上部全体の呼吸を測定した。これら地上部、地下部、及び個体全体の呼吸(Y)と生重量(M)の関係を、系統を考慮した階層ベイズモデルを用いて累乗式(Y = FM f )でモデル化し、樹木と草本、及び両者の異なる機能群(常緑-落葉樹、一年-越年-多年草等)で指数 f を比較した。
指数 f は、樹木より草本の方が統計的に高く、どちらも地下部より地上部の方が高かった。さらに、樹木・草本ともに機能群間で個体呼吸の指数 f に統計的な差は無かった。従って、樹木・草本の両方で、個体呼吸スケーリングは系統・環境を超えて収束することが示された。
従来、呼吸速度を含む多様な植物形質は器官レベルでの環境・系統間差に着目して議論されることが多い。しかし、本研究は芽生え~成熟個体の網羅的サンプリングと個体レベルの実測により、呼吸スケーリングの系統・環境を超えた収束を発見した。このことは、個体レベルかつ広いサイズ幅のスケーリング関係では、植物形質が多様な種間で収束する可能性が高いことを示している。また、樹木は草本とは異なり、継続的な二次成長で不活性組織を幹内部に大量に蓄積し、構造的支持を高めて大型化する。これが、小さな草本よりも大きな樹木で指数 f が低い理由である。本結果は、陸上生態系の地上・地下エネルギーフローを樹木と草本に類型化し、統一的に理解する新基盤となる。以上の成果はRoyal Society Bに掲載された (doi: 10.1098/rspb.2024.1910)。