| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-023  (Poster presentation)

人工樹冠「ダイオードツリー」を用いた植物群落内の光減衰様式の推定【A】【O】
Estimating light attenuation patterns in a plant community using an artificial canopy, the Diode Tree.【A】【O】

*細井新悟(京都府立大学), 森章一(北海道大学, 低温科学研究所), 千貝健(北海道大学, 低温科学研究所), 小野清美(北海道大学, 低温科学研究所), 隅田明洋(京都府立大学)
*Shingo HOSOI(Kyoto Prefectural University), Shouichi MORI(Hokkaido University, Inst. Low Temperature Science), Takeshi CHIGAI(Hokkaido University, Inst. Low Temperature Science), Kiyomi ONO(Hokkaido University, Inst. Low Temperature Science), Akihiro SUMIDA(Kyoto Prefectural University)

植物群落内に差し込んだ光が群落最上面からの積算葉面積の増加にしたがって指数関数的に減衰する現象はBeer-Lambert則として定式化されているが,光の減衰は積算葉面積のみの関数となっており,葉と葉の間の鉛直距離については考慮されていない。一方,太陽の直射光は,1枚の葉のすぐ上に別の葉があるとき下側の葉に半影と本影という2種類の影をつくる。葉間の鉛直方向の距離がごく近ければ,下側の葉が上側の葉の本影下に入り,下側の葉が受ける光の量が少なくなるため,葉と葉との間の鉛直距離は光の減衰に対して何らかの効果を与えるはずである。
これらの矛盾を確かめるため,超小型太陽電池パネルを多数水平面に配し, 1層の葉層に見立てたダイオード盤を,複数枚鉛直方向に配置した人工樹冠「ダイオードツリー」(以下,ツリー)を用いて層間距離の違いや散光条件の効果について検討することにした。
光の散乱を抑えた環境下にツリーを置いた実験では,ダイオード盤2枚がごく近い場合には半影/本影効果により下側のダイオード盤の発電量が減少したが,光の散乱や反射が起こりやすい環境下に置いた実験では減少しなかった。この結果は,下側の葉層からの反射や散乱光が半影/本影効果を無視できる程度に小さくしていることを示唆している。ダイオード盤5層のツリーを野外に置いた実験からは,総発電量が最大となる層間の距離があることが明らかになった。また,単位土地面積を1枚の太陽電池パネルで覆うよりも,総面積が土地面積の数倍となる小型太陽電池パネルを単位土地面積上の空間中に配置するほうが発電総量が大きくなると推定され,森林において葉面積指数が1よりはるかに大きいことと対応していると考えられた。
 以上から,植物群落の受光量が大きく保たれるためには,下層の葉からの光の反射や散乱も重要であり,森林の葉群の鉛直方向の距離の効果の重要性が示唆された。


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