| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-024  (Poster presentation)

遺伝子発現解析によるマングローブの簡便な温暖化影響評価法の検討【O】
Assessing the impact of global warming on mangrove populations from transcriptome data【O】

*小林正樹(国際農研), 赤路康朗(国環研), 河合清定(国際農研), 井上智美(国環研)
*Masaki KOBAYASHI(JIRCAS), Yasuaki AKAJI(NIES), Kiyosada KAWAI(JIRCAS), Tomomi INOUE(NIES)

熱帯・亜熱帯の干潟に生育する樹木であるマングローブには様々な種が含まれる。近年の研究では、メヒルギやヤエヤマヒルギのように分布する地域の気温域が異なるマングローブの稚樹において、成長速度の温度応答が異なることが報告されている。そのため、地球温暖化がマングローブ稚樹の成長に与える影響は種ごとに異なる可能性が考えられ、その影響を評価することは喫緊の課題となっている。しかしながら、マングローブ稚樹の成長速度の温度応答を調べるためには、複数の温度条件下で長期間の栽培実験を行う必要があり、様々なマングローブ種でその関係を調べることは予算的にも時間的にも困難である。そこで我々は、マングローブにおける成長速度の温度応答を簡便に調べる方法として、短時間の温度処理を行ったマングローブの芽の遺伝子発現量が活用できないかと考えた。この目的のために、メヒルギとヤエヤマヒルギの2種のマングローブの稚樹を3個体ずつ、15°Cから35°Cまで5°Cずつ異なる5つの温度条件に24時間置き、それぞれの芽の網羅的な遺伝子発現を解析した。その結果、体細胞分裂に関連する遺伝子の発現量が、栽培実験による実際の成長速度(葉バイオマスの相対成長速度)と有意な相関を示すことが明らかとなった。このことは、短時間の温度処理を施した芽の体細胞分裂関連遺伝子の発現量を調べることで、長期の栽培実験を行うことなくマングローブ稚樹の温度と成長の関係を推定できる可能性を示唆している。そのため、実験から得られた温度と体細胞分裂関連遺伝子の発現量との関係式に将来の気温を当てはめることで、メヒルギとヤエヤマヒルギの各集団の稚樹の成長量の将来的な変化も予測できると考えられた。遺伝子発現解析に必要な費用は年々低下してきており、本手法は様々なマングローブ種の稚樹の成長に対する地球温暖化影響評価を効率的に行う良い方法となりうると考えられる。


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