| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-029 (Poster presentation)
葉柄は水や養分の輸送、葉身の機械的支持などを担うため、葉柄の特徴を理解することは植物の資源利用戦略を理解するうえで重要である。先行研究の多くは温帯林で実施されており、明瞭な雨季と乾季をもつ熱帯季節林での葉柄の特徴は未解明のままである。本研究ではカンボジア熱帯季節林に生育する樹木の葉柄の形態形質と解剖形質を調べ、その特徴を明らかにすることを目的とした。
調査はカンボジア・シェムリアップ州のクーンリアム森林研究所内のプロットで行った。研究所内には落葉樹林、常緑樹林、半常緑樹林が隣接しており、各森林タイプに1haのプロットが設定されている。2024年7月に落葉樹林で23種127個体、常緑樹林で22種101個体、半常緑樹林で21種108個体から、1個体あたり10本の葉柄を採取した。各葉柄について、長さ、断面積、体積、乾重、含水率、葉柄断面に占める木部割合と師部割合を測定・算出し、各形質を樹種タイプ、森林タイプ、複葉と単葉で比較した。また、葉柄の形質間および、葉柄と葉身の形質間で標準主軸回帰を行い、形質間の関係を調べた。
その結果、落葉樹は常緑樹と比べて葉柄の体積と乾重、含水率が高く、複葉は単葉と比べて葉柄が長く、木部割合と師部割合が高いことがわかった。さらに、葉柄の長さと葉柄の木部割合、葉柄の木部割合と葉柄の師部割合、葉柄の乾重と葉身の乾重、葉柄の断面積と葉身の面積との間に有意な正の関係がみられた。以上より、熱帯季節林の葉柄では、樹種タイプや複葉・単葉で形質の特徴が異なること、葉柄の形質間や葉柄と葉身の間にスケーリング関係があることが明らかになった。カンボジア熱帯季節林における葉柄の特徴は温帯林と概ね一致し、樹種タイプ間や複葉・単葉で類似した傾向がみられたが、種間でデータのばらつきが大きい点や、一部の形質で常緑樹と落葉樹に差がみられない点で温帯林とは異なっていた。