| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-030 (Poster presentation)
葉は風雨や被食といった物理的なストレスにさらされるため、葉を長持ちさせるためには、強度(破壊するために必要な力)の高い葉を作る必要がある。実際に、種間では葉寿命の長い種ほど葉の強度が高い。また、種内では陰葉は陽葉よりも薄いが、薄さのわりに強度が高く、陽葉よりも葉寿命が長いことが知られている。強度を高めるためには、剛性(変形しにくさ)と最大ひずみ(壊れるまでにどれだけ変形できるか≒しなやかさ)のどちらかを高くする必要があるが、「葉の強度の種間・種内の変異は剛性と最大ひずみのどちらに説明されるか」という問いを検証した研究はこれまでにない。
同じ科に属する常緑広葉樹と落葉広葉樹のペア(15ペア30種)から葉を採取した。また、種内変異の検証のために、常緑広葉樹8種から陰葉と陽葉を採取した。二次脈を避けて長方形の葉片を切り出して、材料試験機により引張試験を行った。引張試験では葉片がちぎれるまで、ひずみと荷重を連続的に記録し、強度、ヤング率(剛性の指標)、最大ひずみなどの力学特性を算出した。また、厚さやLMA(葉の面積当たりの乾重)等の葉の形態形質も測定した。
常緑樹の葉は、厚さ、強度、ヤング率、最大ひずみのすべてにおいて、落葉樹よりも高かった。ヤング率と最大ひずみは負に相関したが、同程度のヤング率で比較すると常緑樹のほうが最大ひずみが大きかった。このことから、葉の強度の種間変異にはヤング率と最大ひずみの両方が寄与し、強度を高めるためにヤング率を高めている種と最大ひずみを高めている種の両方が存在することが示唆された。陰葉は陽葉よりも薄いが質的な強度は陽葉よりも高かった。ヤング率は陰葉のほうが陽葉よりも高いが、最大ひずみは陰葉と陽葉で差がみられなかった。このことから、葉の強度の種内変異にはヤング率が寄与し、最大ひずみは寄与しないことが示唆された。