| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-031  (Poster presentation)

展葉は気温のみで決まるのか? :樹木個体吸水における地下部冷却の関与【O】
The impact of soil chilling on leaf unfolding focusing on suppressed tree water absorption.【O】

*庄司森(岩手大学, 山形大学), 吉村謙一(山形大学)
*Shin SHOJI(Iwate Univ., Yamagata Univ.), Kenichi YOSHIMURA(Yamagata Univ.)

 多雪林では、残雪が展葉を遅らせることが知られている。冬芽・新葉は土壌や樹体からの水分供給により吸水成長し展葉する。これに対し、水分を供給する根は低い地温で通水性が著しく低下する。しかし、冬芽と根の両方の挙動に着目し、気温と地温が乖離する環境下で展葉時期がずれるプロセスを解明した研究例はない。本研究では根の冷却が通水を制限し、芽・葉の吸水が抑制され、展葉が遅延すると仮説を立てた。イタヤカエデの苗木を用い芽の吸水と根の通水性に着目し、温度制御下で地温が違う場合の根の通水や芽・葉の吸水成長を比較することで低い地温が展葉を遅らせるプロセスの解明を目的とした。
 実験は4月から6月に行い、処理項目は平均して地温を3.1 °C、枝先を2.6°Cにした冬季処理、雪をかけて地温を2.6 °Cにし、枝先を11.7 °Cにした残雪処理、地温と枝先の両方を11.7 °Cにした無雪処理の3つに分けた。展葉日と芽・葉の水分量の季節変化を調べた。加圧した水を根に通すことで単位時間あたりの根の通水性を測定することに加え、低い地温がアクアポリンに与える影響を調べるために、塩化水銀水溶液でアクアポリン活性を阻害した場合の根の通水性を調べた。
 無雪処理と比較して残雪処理で展葉が遅延した。残雪・無雪処理での芽の吸水が確認されたが、残雪処理において芽・新葉の水分増加が抑制された。冬季処理では芽の水分増加および展葉は確認されなかった。葉の拡大までに無雪処理の根の通水性は著しく増加したが、残雪・冬季処理の通水性は低いままであり、これには根のアクアポリン発現抑制が関与していた。
 樹木は気温上昇により展葉するが、低い地温が展葉を遅延させる。根の冷却によりアクアポリンの発現が制限され、通水性が低下し葉拡大に至る冬芽・新葉の吸水速度が小さくなることがわかった。これらのことから残雪による根の冷却が冬芽の吸水成長を抑制し展葉および葉の拡大が抑制されることが明らかになった。


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