| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-034 (Poster presentation)
オゾンは樹木の光合成を低下させるガス状大気汚染物質である。樹木に対するオゾンの影響は、気孔を介したオゾン吸収量と密接に関係する。このため、森林の炭素固定に対するオゾンの影響を評価するためには、森林のオゾン吸収量の定量的評価が必要である。大気オゾン濃度が高いアジアの温帯地域には、フェノロジーが著しく異なる落葉広葉樹と常緑針葉樹が広く分布している。しかしながら、これらの森林のオゾン吸収量に関する知見は限られている。そこで本研究では、日本を代表する落葉広葉樹であるコナラと常緑針葉樹であるスギを対象として、両林分のオゾン吸収量とその季節変化を解明することを目的とした。東京都八王子市に位置する東京農工大学農学部附属フィールドミュージアム多摩丘陵のコナラ林とスギ林のオゾン吸収量を、樹液流速の計測に基づく手法を用いて推定した(2020年5月~2021年4月)。幹内部における蒸散流の速度である樹液流速を計測し、蒸散速度を算出した。Penman-Monteith式を用いて蒸散速度と気象要素から林冠コンダクタンス(Gc)を推定し、Gcに大気オゾン濃度を乗じてコナラ林とスギ林のオゾン吸収量を推定した。コナラ林のGcは、3月から7月にかけて増加し、10月から12月にかけて低下した。スギ林のGcの季節変化はコナラ林のそれより小さかった。5月から10月にかけて、コナラ林はスギ林より高いオゾン吸収量を示した。これに対して、スギ林はコナラの落葉していた冬においても、ある程度のオゾン吸収量を示した。その結果、スギ林の年間積算オゾン吸収量(102.2 mmol m-2)は、コナラ林のそれ(114.5 mmol m-2)と同等の値を示した。本研究の結果から、コナラ林とスギ林のオゾン吸収量の季節変化は異なるが、両林分の年間積算オゾン吸収量は類似していることが明らかになった。