| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-035  (Poster presentation)

土壌過湿下の気孔抵抗,葉肉抵抗,生化学反応に起因する光合成律速動態の定量的解析【O】
Quantitative Analysis of Photosynthesis Limitation by Stomatal, Mesophyll, and Biochemical Responses to Soil Waterlogging【O】

*久保田滋裕(九州大学), 横山岳(九州大学, チャップマン大学), 柴田敏宗(九州大学)
*Shigehiro KUBOTA(Kyushu University), Gaku YOKOYAMA(Kyushu University, Chapman University), Toshimune SHIBATA(Kyushu University)

土壌過湿下における光合成の低下は多くの植物で観測されている。一方で、その主要な律速要因については気孔抵抗、葉肉抵抗、生化学反応のいずれについても報告されており、明らかになっていない。本研究では、光合成制限要因の定量解析手法を用いて、過湿下における光合成の制限要因を解明することを目的とした。
実験には、九州大学圃場内の温室にて栽培した開花期のダイズ(Glycine max, cv. フクユタカ)を使用した。栽培ポットを、水を張ったコンテナに沈め、湛水深が2 cm以上になるように適宜給水することで過湿処理を施した。6日間湛水した後、排水し、14日間栽培を継続した。携帯型光合成蒸散測定装置(LI-6400XT)を用いて、光合成速度Pnと気孔コンダクタンスgsを測定した。計測条件は、光合成光量子束密度1500 μmol m⁻² s⁻1、 CO₂濃度350 μmol mol⁻¹とし、気温、相対湿度は外気を参照して決定した。得られた結果を基に、Variable J methodで葉肉コンダクタンスgmを、一点法で最大カルボキシル化速度Vcmaxを推定した。さらに、Grassi and Magnani (2005)にしたがって気孔・葉肉コンダクタンスと生化学反応速度の光合成への寄与率を計算した。
湛水開始後4日目より、対照区と比較してPn、gsが低下し始め、5日目にはgmも低下し始めた。一方で、Vcmaxは湛水期間中、対照区と同程度の値を示した。排水後もPnは回復せず、対照区と比較して40%程度低い値を示した。gsは、排水後6日で対照区と同程度まで回復した。対照的に、Vcmaxは、排水後3日目より低下しはじめ、実験終了時には対照区よりも20%低い値を示した。以上から、湛水期間中の光合成の主要な制限要因は、気孔と葉肉を通過するCO₂の拡散過程であるのに対し、排水後3~6日程度で気孔と葉肉による光合成の制限は小さくなり、生化学反応が光合成を制限するようになることが示された。


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