| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-036 (Poster presentation)
中央アジアのキジルクム砂漠は年間降水量が極めて少ない地域であり、主要な植生は草本とArtemisia diffusaなど樹高50cm程度の浅根性木本植物から構成される乾性草原である。一方、点在する被圧地下水の自噴点(以下、湧水点)周辺の低湿地にはTamarix hispidaやHaloxylon ammodendronなど樹高2~3mの深根性木本植物が自生している。この地域で報告されている地下水量の減少が植生に及ぼす影響を解明するため、低湿地の木本植物の水利用様式を理解する必要がある。そこで本研究では、キジルクム砂漠南東部キジルケセク地区(41°06’ N、64°54’ E)に設定した11×13kmの調査区内の14地点の湧水点で採取した自噴直後の地下水および各湧水点周辺に自生するT. hispida、H. ammodendron各27個体の枝内水、対照として湧水点から800~1000mほど離れた乾性草原3地点に自生するA. diffusa6個体、T. hispida3個体、H. ammodendron6個体の枝内水の酸素安定同位体比(δ18O)を測定し、それらを比較することで対象植物の吸水源の解明を試みた。湧水点から離れた乾性草原に自生するA. diffusaの枝内水のδ18Oは同所に自生するT. hispidaとH. ammodendronのそれらよりも有意に高かった。A. diffusaは浅根性であること、水のδ¹⁸Oは蒸発に伴い上昇することから、A. diffusaは地表面蒸発の影響を受けた浅層土壌水を利用していることが示唆された。また、湧水点近傍に自生するT. hispidaとH. ammodendronの枝内水のδ18Oは地下水のδ18Oと有意差はあるものの近い値であった一方、A. diffusaの枝内水のδ18O、すなわち浅層土壌水のδ18Oよりもはるかに低い値であった。これらのことから、湧水点近傍に自生するT. hispidaとH. ammodendronは主に地下水を利用していると推察された。