| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-038 (Poster presentation)
変動光に馴化した葉の光飽和光合成速度(Asat)が,一定光より増加することがしばしば報告されている(Morales and Kaiser, 2020).一般に,Asatの増加は高い光強度で生育した葉にみられる馴化応答として知られ,変動光におけるAsatの増加は,変動光の強光域に馴化していることが要因である可能性がある.本研究では,変動光下のAsatの増加が,最大光強度(PPFDMAX)とその持続時間(Δt)に依存すると仮定し,異なるPPFDMAXとΔtを持つ三種類の変動光下において,光合成能力および葉の光吸収率を左右する葉の形態を評価した.
材料植物はキュウリを用いた.日積算光量が同じ条件で,一定光(CL;PPFD=300 µmol m-2 s-1)とPPFDMAXとΔtの異なる三種類の変動光(FL1,PPFD MAX=450 µmol m-2 s-1,Δt=5h;FL2,PPFDMAX=650 µmol m-2 s-1,Δt=3h;FL3,PPFDMAX=1050 µmol m-2 s-1,Δt=1.6h)で40日間栽培した.光合成蒸散測定装置(LI-6400XT)を用いて、葉温25±1℃,CO2濃度400 µmol mol-1に制御した環境で,光光合成曲線を取得し,Asatを評価した.また同装置を用いて,最大カルボキシル化速度Vcmaxと最大電子伝達速度Jmaxを評価した.栽培終了後,計測対象葉の葉厚LTに対する柵状組織の長さLPおよび海綿状組織の長さLSの割合(LP/LT,LS/LT)をそれぞれ評価した.
AsatはFL1で最大となり,次いでFL2で大きく,FL3とCLで同程度であった.VcmaxとJmaxについてもFL1で最大となったが,CLのVcmaxはFL2,FL3よりも高い傾向にあり,JmaxはFL2,FL3よりも低い傾向にあった.日積算光量が同じ条件であっても,CLに比べてFLで高い光合成能力を示す可能性があり,PPFDMAXよりもΔtに強く影響を受けていることが示唆された.LP/LTはFL2で最大となり,次いでFL1で大きく,FL3とCLで同程度であり,LS/LTはLP/LTと反対の結果を示した.変動光環境において葉内の柵状組織が発達し,光吸収率が高まった結果,高いAsatを示した可能性がある.