| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-039 (Poster presentation)
一般的に直径2mm以下とされる細根は、短期間で成長と枯死を繰り返し、土壌中に炭素を固定する重要な役割を持っている。そして細根を観察する手法の一つに、土壌断面を撮影するスキャナ法がある。この手法を用いて土壌断面を自動連続撮影する場合、自動撮影のため撮影時の画像を目視で確認できず、スキャナの一時的な不具合により縦線ノイズや湿気などによる曇りが画像に混入するという課題が生じてきた。また近年、スキャナ画像からの細根抽出を効率的に行う方法として、深層学習による細根自動抽出ソフトウェアARATA(Yabuki et al. ,2022)が開発された。しかし、ARATAで作成された既存モデルは限られた試験地にのみ調整されているため、他試験地やノイズ、曇りのある画像での精度は不明である。
そこで本研究は、①スキャナ画像上のノイズ・曇り対策の開発と、②ARATAの追加学習効果を検証することを目的とした。①のノイズ対策については、ARATAの抽出クラスに、根系クラス、菌根クラスに加えて縦線ノイズクラスを設定した。そして赤色の縦線ノイズ画像から根系とノイズをそれぞれ手抽出した画像を教師データとして学習させた。曇り対策には、Bijan (2020)のRパッケージを用いて、曇り画像と曇りのない画像を選別する手法を検討した。②の追加学習については、Yamagata et al. (2024)の学習済みモデルに苫小牧の教師データを追加学習させ、精度向上を評価した。
本研究の結果、縦線ノイズについては、ノイズクラスを新たに識別・抽出できることが確認された。曇り画像については、画像を分割して評価することで、全画像の約1/3がARATAによる細根抽出に使用可能かどうか判定することが可能であった。さらに、追加学習によって、抽出される細根量が増加し、精度が向上することが確認された。以上の結果から、ノイズや曇り対策が自動抽出の信頼性を高める有効な手段であり、追加学習により新たな試験地での抽出精度の向上が可能であることが示された。