| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-040 (Poster presentation)
アントシアニン(以下、AnC)はフラボノイド類の一種であり、一部のナデシコ目植物を除くほぼすべての陸上植物が有する植物色素である。AnCの役割は主に植物体の地上部で知られており、送粉や種子散布、非生物的・生物的ストレス耐性において重要な機能を持つ。その一方で、AnCは様々な植物の地下部においても合成、分泌されていることが知られる。しかし、地下部におけるAnCの役割については、ほとんど明らかになっていない。そこで本研究では、地上部と地下部でのAnC合成の異なるヤマノイモ科植物のダイジョ3系統を用いて、地下部でのAnC合成能を有する系統は、同種の競争相手の成長を抑制するという仮説を検証した。具体的には、①地上部と地下部ともにAnCを合成しない系統A、②地上部にのみAnCを合成し、地下部ではAnCを合成しない系統S、③地上部と地下部ともにAnCを合成する系統Pを用いて、植え合わせ実験を行い、処理間でバイオマスをはじめとした形質を比較した。その結果、地下部でAnCを合成しない系統Aと系統Sのバイオマスは、競争相手が地下部でAnCを合成する系統Pである場合に顕著に減少した。一方で、地上部でAnCを合成する系統Sが競争相手である場合には、いずれの系統においてもバイオマスの有意な変化は観察されなかった。このことから、地下部で合成されるAnCは、種内相互作用において、同種の競争相手の成長を抑制する機能を持つ可能性が示唆された。発表では、AnCが個体間のシグナル分子として機能する可能性も含めて議論する。