| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-041  (Poster presentation)

相対成長速度の種間差を古典的手法と窒素獲得・利用に基づく手法の両方から評価する【A】【O】
Evaluating relative growth rate by classical method and method based on nitrogen use and aquisition【A】【O】

*鈴木桂実(東北大学), 梶野浩史(東北大学), 廣川周作(東北大学), 冨松元(東北大学), 門脇浩明(京都大学), 彦坂幸毅(東北大学)
*Katsumi SUZUKI(Tohoku Univ.), Hirofumi KAJINO(Tohoku Univ.), Syusaku HIROKAWA(Tohoku Univ.), Hajime TOMIMATSU(Tohoku Univ.), Kohmei KADOWAKI(Kyoto Univ.), Kouki HIKOSAKA(Tohoku Univ.)

植物の成長には様々な資源を必要とするため、一つの機能を強化させるだけで成長速度が高くなるとは限らない。例えば、葉の光合成を高めるだけでは炭素獲得が増えるが、相対的に窒素など他の元素が不足するため、根の機能を増強して窒素を多く吸収する必要がある。一方、吸収量を上げなくても、いったん吸収した資源を長期間保持して利用効率を上げることでも資源の不足を補うことができる。本研究では、これら光合成、窒素獲得、利用といった成長速度に関与し得る機能を量的に統合した新しい成長モデルを構築した。常緑広葉樹11種と落葉広葉樹39種の実生を共通圃場で2年間栽培し、モデルを適用した。仮説として、1)葉と根の生理活性が成長速度に重要である、2)葉と根の形態が成長速度に重要である、3)長い葉寿命は葉や葉窒素の保持期間を長期化させることで成長速度を高める、という3つの仮説を立てた。落葉樹は常緑樹に比べ相対成長速度(個体重量当たりの成長速度、RGR)が高かった。それぞれ葉と根の生理活性の指標である葉面積あたりの炭素獲得速度と細根表面積あたりの窒素獲得速度には差がなく、仮説1は棄却された。一方、それぞれ葉と根の形態の指標であるSLA(葉面積/葉重量)とSRA(細根表面積/細根重量)は、落葉樹で高く、RGRとも高い相関を示し、仮説2が支持された。葉寿命は常緑樹で高かったが、成長速度増加の効果はなく、仮説3は棄却された。成長モデルをもとにしたパス解析の結果、SLAを高めることは葉面積を広げることで成長速度増加に貢献していたが、葉面積あたりの窒素量を減らす負の効果もあった。しかし、この効果はSRAを高めることで相殺された。本研究から、成長速度の樹木種間差は、主に葉と根の形態の違いを反映していることが明らかとなった。成長速度が低い種は、葉寿命や窒素滞留時間が長く、資源保持戦略を採用していると示唆された。


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