| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-042  (Poster presentation)

タネツケバナ属多年草における短期・長期乾燥応答におけるエピジェネティック制御【E】【O】
Epigenetic regulation underlying short- and long-term drought responses in a perennial Cardamine【E】【O】

*西尾治幾(滋賀大学, 京都大学), 荒木希和子(滋賀県立大学, 京都大学), 金岡雅浩(県立広島大学), 工藤洋(京都大学)
*Haruki NISHIO(Shiga Univ., Kyoto Univ.), Kiwako ARAKI(Univ. of Shiga Pref., Kyoto Univ.), Masahiro KANAOKA(Pref. Univ. of Hiroshima), Hiroshi KUDOH(Kyoto Univ.)

植物の乾燥ストレス耐性は、成長・繁殖成功を大きく左右する形質である。自然環境下で生育する植物はしばしば、穏やかな乾燥に長期的に晒されている。しかしモデル植物シロイヌナズナを用いた乾燥ストレス応答における遺伝子制御の研究の多くは、劇的な乾燥を数時間植物に与えることで行われている。本研究では、より自然環境に近い条件下での植物の乾燥耐性メカニズムを理解するため、シロイヌナズナに近縁なタネツケバナ属の多年草であるCardamine amaraを用いて栽培実験を行い、短期乾燥と長期乾燥に対するエピジェネティック制御をRNA-seqとH3K4me3、H3K27me3、H3K9me2を対象としたChIP-seqにより調べた。大部分の遺伝子で、mRNA発現・ヒストン修飾ともに、長期乾燥では短期乾燥よりも変化が穏やかであることがわかった。特にその差が顕著だったH3K9me2では、短期乾燥では3,842遺伝子において蓄積量が有意に変化したが、長期乾燥ではわずか14遺伝子であった。また、乾燥と湿潤条件間で差があった遺伝子のGene ontology(GO)解析を行ったところ、長期・短期ともに、乾燥で発現低下する遺伝子では防御関連のGO、乾燥で発現上昇する遺伝子では光応答または光合成関連のGOが検出された。一方、抑制型ヒストン修飾H3K27me3が乾燥で増加する遺伝子では防御関連のGOが検出されたが、乾燥で減少する遺伝子では光応答または光合成関連のGOは検出されなかった。これらの結果より、植物は短期的な乾燥に対してエピジェネティック制御により遺伝子発現を大きく変化させて対応しているが、乾燥が長期に及ぶとその制御が弱まることが明らかとなった。また、乾燥に対するH3K27me3による遺伝子制御は、乾燥応答や光応答よりも生物的ストレスに対する防御応答において卓越していることがわかった。


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