| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-043 (Poster presentation)
葉の厚さや,葉寿命など葉形質は種によって異なる。先行研究により,葉面積当たりの乾重LMAが大きい種ほど,葉寿命が長く葉重当たりの光合成速度は低いなど,さまざまな気候帯をまたぐグローバルな種間の相関が見つかっている。この背景には,葉の有機物生産における資源利用戦略の違いがあると考えられ,これら葉形質の値が互いに関連しながら一本の軸上に連続的にならぶ相関は,「葉の経済スペクトラムLES」と呼ばれる。
ルビスコは,光合成の有機物生産の入口でCO2を固定する重要な酵素であるが,O2固定反応も触媒し有機物の分解(光呼吸)ももたらす。そのためCO2濃縮機構を持たないC3植物は,ルビスコのCO2とO2に対する基質親和性の比SC/Oが光合成生産に重要な意味を持つ。またルビスコには,SC/Oが高いと活性部位の最大反応速度が低くなる「触媒トレードオフ」の存在が提唱されてきた。
発表者らは,小笠原諸島父島に自生する23種のC3木本種のルビスコを評価して,ルビスコのSC/Oに1.7倍もの種間変異があり,その変異がLESの軸に沿っていることを見出した。LMAが高く葉寿命の長い種は,よりCO2選別の正確な(高SC/Oの)ルビスコを,LMAが低く葉寿命の短い種は,CO2選別がより不正確な(低SC/Oの)ルビスコをもっていた。前者ではルビスコ周辺のCO2濃度が低くCO2選別の正確なルビスコが有利なことが,また後者では葉に多くのタンパク質を持たないためルビスコ量が少なく,活性部位の最大反応速度が高いルビスコがより有利なことが,それぞれ主要な原因だと考えられた。これらの妥当性は,「触媒トレードオフ」を組み込んだ光合成モデルに,それぞれの種の葉特性を適用した数値シミュレーションにより確認された。我々の見出したSC/Oにおける種間の変異は,種ごとに異なる葉形質への,自然選択による最適化の結果だと解釈された。